羊をめぐる冒険(下)・村上春樹 の解説 | まさひこのの書評と解説のページ

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僕が読んだ本についての、書評と解説を書いてみました。

 

 ── そうなのか。この話、ホラーなのか。第八章「鏡に映るもの・鏡に映らないもの」からホラー進行なのか。そして時は過ぎて行く・・・。

 

一カ月以内に、特別な羊を探し出すことを課せられた僕は、美しい耳を持つガール・フレンドとともに、北海道へと飛んだ。

 

到着した二人は、いるかホテルという、古びた、無個性なホテルを宿泊先に決めた。僕らは、手分けして、目的にあたることにした。僕のほうは写真の風景を、彼女のほうは羊牧場を。

 

写真に写る、背中に星の形を持った珍しい羊。僕らは、手がかりを一向に掴めずに、長期滞在のいるかホテルで、時間だけが過ぎていく。

 

が、不安を募らす僕の前に、浮かび上がった羊博士という存在。

 

僕たちは、事情を知ってそうな羊博士に話を聞きにいくのだが、その人物はなかなかの難物で・・・。

 

この小説、意外だった。ホラーなのね。羊男の登場から、ホラーになっていく。羊男の登場は、そのビジュアル感もあって、何かのコントのように思えるのだが、冷静に考えると、実は怖いよ。奥地の別荘の中、ひとり強力な孤独感で静寂の時を過ごす僕のもとに、羊のコスプレをした、わけのわからない怪しい男が、訪ねてくるんだから。

 

超有名小説家、村上春樹の有名作品ということで、たかをくくっていたが、村上春樹って結構難解なんだな、というのがこの本を読んだ感想。僕たちが探す「星を持つ羊」とは、一体何なのか、といえば、それは、概念的な存在なのであった。それは、超リスクを伴う特殊能力との取り引き、その人間は特殊能力を身に纏うが、失われたら最後(必ず失われる)、その者は「呆け」になる、という。なかなか難解だ。

 

「羊をめぐる冒険」は、鼠三部作の三作目、鼠と僕のお話はこれで終わるわけだが、疑問点もあった。それは、この冒険は1978年の出来事のはずなのに、その旅が終わって、僕がおなじみのジェイズ・バーに帰ってきたとき、なぜか時間が、いきなり1982年になってしまっているのだ。

 

ま、いいや。この不思議な冒険を経て、僕のまわりの時間が少し歪んでしまった、とでも思っておこうかな。

 

今回の読書。意外に怖くて、意外に難解。そしてなにより悲しい話だった。

 

☆ 羊をめぐる冒険・村上春樹・1982年10月発行・講談社。講談社文庫・オリジナルカバー版・2004年11月発行。