石井光太「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち | 読書日記PNU屋

石井光太「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち

「鬼畜」の家:わが子を殺す親たち「鬼畜」の家:わが子を殺す親たち
石井 光太

新潮社  2016-08-18


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 近年、日本中を震撼させた三つの虐待死事件、厚木市幼児餓死白骨化事件、下田市嬰児連続殺害事件、足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件を、事件のあらましから裁判の経緯、加害者となった両親の生い立ちまで掘り起こした、濃厚かつ重厚なルポルタージュ。

 本文270pほどと、さほど分厚いわけでもないのに、本書を読み終えた時の疲労感といったらどうだ。事件のやりきれなさだけではない。このノンフィクションは、虐待死事件が起きる理由、どうしようもない貧困と虐待の連鎖をありありと暴き出しているが、今、地域社会のネットワークが崩壊した日本では、本書に記載されたような悲劇を防ぐ有効手段を持っていないのだから。

 読んで恐ろしかったのは、事件の陰惨さもさることながら、わが子を死に至らしめておきながら『愛していた』『かわいがっていた』と言ってのける加害両親たちである。彼らはまるで判を押したかのように貧しく、貞操観念が薄く、尋常ではない思考回路を持つ親に育てられている。

 不幸な家庭に育った者が、不幸な家庭を再生産している様が、本書からわかる。だが、その当事者たちは、それしか家庭のモデルケースが無いがゆえに、地獄のはきだめのような家庭でも、その中でたとえ短い命閉じようとも、ささやかな幸せを見出して微笑む。それがたまらなく不憫でならない。

 絶望的な世界ながら、エピローグで書かれた善き個人の取り組みには一抹の希望を見る想いがした。本来ならば、行政がこのような救済措置を用意すべきなのだろうが…。


p.s.著者は東日本大震災のルポ「遺体」が凄かったので今回も手にとってみたが、予想以上のすごさであった。著者の次回作にも期待したい。