逢坂冬馬◇同志少女よ、敵を撃て◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

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照準器から覗く敵は「誰」の顔をしているーーー!?

 

 

 

 

 

◇同志少女よ、敵を撃て◇

逢坂冬馬

 

 

独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために……。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?

 

 

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モスクワ近くの村イワノフスカヤ村に住むセラフィマは16歳、銃の名手。頭が良くてドイツ語が堪能で村で初めて大学に行く女性。……になるはずだった。ドイツ軍が急襲して村人全員を虐殺しなければ。

 

 

セラフィマは間一髪のところを赤軍兵士に救われるがその兵士イリーナは冷淡で母親ともども火にかけてしまう。「戦いたいか、死にたいか」究極の選択を強いられたセラフィマは数多の復讐心を秘めて特殊な訓練学校で狙撃兵に変貌する。

 

 

同じ境遇の少女たちと絆を深めた先は戦場。独ソ戦最前線で仲間は次々と死んでいく。セラフィマの心はいやでも変化し、何も知らなかった少女だった頃の心は死にかける。それは1945年、ドイツの敗戦濃厚になった頃の要塞都市ケーニヒスベルクでとうとう死んでしまった。セラフィマは本当の敵を目撃した。その、名前は。

 

 

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「同志少女よ、敵を撃て」です(・∀・)

こんなご時世と相まって今年1番の話題作、本ブログに登場! いやー去年から結構話題に上がっていましたがウクライナのことがあってから沸騰しましたね。そういう意味では本屋大賞はもはや予測通りだったというか……作者さんが複雑な気持ちを語っていましたが……

 

 

独ソ戦に女性狙撃兵を投入したことは「戦争は女の顔をしていない」で今や多くの人が知っている事実になりましたが、本書はまさにそれ。インタビューに答えた女性たちがこの話の主人公です。

 

 

普通の女の子、普通の女性だった彼女たちが銃を握って人を殺してとんでもない極限状況で肉体的にも精神的にも変調をきたして……普通の狩猟少女だったセラフィマが狙撃兵としてキャリアを積むのは快楽的にスコアを更新する殺人鬼にも見えてその変貌がかなり恐ろしかったです。

この本は父から借りたのですがその時「これは今、読むべき本だと思う。ウクライナ侵攻関係無しに」と言いました。その時は意味が分からなかったのですが、読み進めるうちに納得しました。戦場というのは本当に……人間のいて良いところじゃない。

 

 

あともう1つ。題名にある「敵」とは誰か? 私は色々考えてみました。自慢するわけではありませんが伊達にここで1500冊も読んでいませんから「敵は間違ってもイリーナでは無い」「下手したら仇のドイツ兵(フリッツ)でも無いかもしれない」「まさか同士討ち? シャルロッタだったら泣くぞ」とかまぁ考えていました。最終章辺りからどんどん明らかになるわけですが……

 

 

よりによって、なんで、お前だったんだ。よりによって作者は心に深傷必至の爆弾を投げましたよ……いや、もしかしたら後からなんとかするつもりだったのかもしれない(いや、どうやって)、でもそれはもう確かめられない、だってもういないんだもの。

あと、NKVDがドイツ兵と夢を話し合うところで自分は泣いたんです。嘘と演技だらけの中、垣間見せた人間性。だけど戦場の前にはそんなものは無価値、というか邪魔。

戦場において、というか兵士が人間的な感情を持つなんて許されないどころか唾棄すべきことであることに対してとてつもない嫌悪感……

 

 

というかあれだ。戦場は人を合法的に狂人にする国家運営の工場なんだな。だってまともな感情を持つことは許されないんだから、人間では無い別のものに変えてしまう必要があるわけだ。あらゆる残虐行為を、人間のままやれるか? 狂人でない、というなら永遠に罪を償う機会を持てないぐらいの意識を持ってくれ。話中の何人かはその意識まるっきり無かったのでね。本当はそういう連中こそ命あって欲しいのですが。

 

 

現代に話を変えるとウクライナ侵攻は悪化の一途を辿ってロシアは世界中から非難を浴びています。……また狂人を生む気なのか。残虐行為も報告されている中、その人たちを平和な世界に戻したらどうなるか、分からない国では無いはず。その人たちを見る目はセラフィマたちの時よりもずっと強い嫌悪と憎しみがある。今度は世界規模だし、はっきり言って泣き寝入りにもならない。私はロシアを嫌いたくない、本当に目を覚ましてほしい。本当に笑えるぐらい何も出来ない。出来るのは願うことと知ることだけだ。

この話を読めてよかった。選んだ審査員の慧眼に脱帽!

 

 

「同志少女よ、敵を撃て」でした(・∀・)/

次は戻ってレックス・スタウトです(*^o^*)/ そしてその最後に大事な話があります……