結局のところ、「ジュリアン・バトラー」とは何者だったのか? 「本当」の戦後アメリカ文学史を目撃せよーーー!
◇ジュリアン・バトラーの真実の生涯◇ -The Real Life of Julian Butler-
川本直
「ジュリアンは私で、私はジュリアンだった」
作風は優雅にして猥雑、生涯は華麗にしてスキャンダラス。
トルーマン・カポーティ、ゴア・ヴィダル、ノーマン・メイラーと並び称された、アメリカ文学史上に燦然と輝く小説家ジュリアン・バトラー。
その生涯は長きにわたって夥しい謎に包まれていた。
しかし、2017年、覆面作家アンソニー・アンダーソンによる回想録『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』が刊行され、遂にその実像が明らかになる――。
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「わたし」ジョージ・ジョンはジュリアン・バトラーは15歳の時、男子校フィリップス・エクセター・アカデミーで出逢った。「サロメ」をきっかけに女のように妖美な少年と平々凡々な少年は恋仲になった。そして人生を共にすることになった。ポルノ作家として世間に登場し、顰蹙と醜聞を醸し出しながら少しずつ戦後アメリカ文学史の「作家」になっていく。
ジョージ・ジョンは作家として生きたかった。けれど「独り」では無理だった。またジュリアンも「独り」では生きていけなかった。反発していてもどんな時も。イタリア、ラヴェッロに移り住んだ頃、ジュリアンには暗い影が。その時、「わたし」はーーー
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「ジュリアン・バトラーの真実の生涯」です(・∀・)
Twitterで見て気になっていた本を借りて来ました。そしてやっと来ました。本書はデビュー作なのに読売文学賞を受賞した超話題作です。読売文学賞は今までの受賞者を見るに新人に与える賞じゃないので驚きです。でもこの作家は「書く」こと自体は新人ではないので良いのかな。
さてさて、トルーマン・カポーティ、ゴア・ヴィダルと並んで戦後アメリカ文学史を彩る「ジュリアン・バトラー」。ポルノ作家として世に出て作品も醜聞だらけでしたが本人の私生活も醜聞だらけで度肝を抜かれます。最初からもう珈琲を噴きかねない。意外に保守的、意外に潔癖なアメリカ社会で同性愛を謳うも語るも困難を極めた時代にも関わらず彼はなんの気兼ねも負い目も劣等感も無く過剰なまでに自身を肯定しています。ジョージとは大違い。その点が全く逆だったことがある種の悲劇だったと思います。よくある裏表では無く逆転したり、消えてしまったりするところに2人の複雑さがあると思います。
戦後アメリカって冷戦とベトナム戦争ぐらいしか伺えるところが無かったので同性愛を通して20世紀アメリカを知ることが出来たのは意義深かったです。知っているようで知らないというのは今や罪だと思います。
さて、「ここまで書かれると逆に気になるよねー。読みたいなー」と思った人間ほど最後の文章にこう吐きたくなります。「嘘つけ」
ここまで虚実を事実と歴史に仕立てた作品を、私は知りませんでした。それほどリアリティーがあります。濃密な人間関係とその感情、参考文献、これが虚実って……あり得ない。私は並行世界を信じているので絶対に「ジュリアン・バトラー」が実在する世界線があると信じています。
いやー、すごいものを読んでしまった。作者の2作目が楽しみです。というかこれからも作家として生きていくのならある意味2作目が正念場のような気がします。
「ジュリアン・バトラーの真実の生涯」でした(・∀・)/
次こそスタウト、隠れた主人公が登場します (*^o^*)/