原田マハ No.1◇たゆたえども沈まず◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




TwitterもといX: 「https://twitter.com/KYoCaTHouWoR
エブリスタ: https://estar.jp/users/153193524

「ジャポニズム」に沸くフランスで生まれた奇跡の出逢い。

 

 

 

 

◇たゆたえども沈まず◇ -Fluctuat Nec Mergitur-

原田マハ

 

 

19世紀後半、栄華を極めるパリの美術界。画商・林忠正は助手の重吉と共に流暢な仏語で浮世絵を売り込んでいた。野心溢れる彼らの前に現れたのは日本に憧れる無名画家ゴッホと、兄を献身的に支える画商のテオ。その奇跡の出会いが"世界を変える一枚"を生んだ。 読み始めたら止まらない、孤高の男たちの矜持と愛が深く胸を打つアート・フィクション。

 

 

☆*:.°. .°.:*☆☆*:.°. .°.:*☆☆*:.°. .°.:*☆

 

 

1886年。フランスに心酔する画商の林忠正はパリの美術界、いわば欧米の美術の最先端で有る浮世絵を売り込もうとパリに渡る。助手は後輩格の加納重吉。重吉は慣れない欧米の慣習や商売のやり方に四苦八苦する。

 

 

当時パリの美術界を率いていたのは芸術アカデミーだ。彼らの絵を上流階級に売り込み、成功することは商会の命運を左右した。グーピル商会もアカデミーの絵を売り込むやり手だ。……しかしそこに勤めるテオ・ファン・ゴッホは浮世絵や新しく生まれた「印象派」に激しく惹かれ、グーピル商会の仕事にやらせなさを感じていた。しかし保守的な商会はそんなことを絶対に許さない。テオは画商として本当に売りたい絵を思っていた。

 

 

浮世絵は大流行りで「ジャポニズム」という言葉を売り込む社会現象になった。忠正と重吉は正真正銘の「日本人」で有るという不可避にして不可侵な長所を活かし、良質な浮世絵を沢山売り出した。そして忠正、重吉はペレル伯爵夫人のサロンでテオと出会った。テオとの出逢いは1人の画家に光を当てた。ーーー今はまだ無名で酒に逃げる無法者だが浮世絵に魅せられ、日本に恋焦がれて新しい絵を模索したフィンセント・ファン・ゴッホに。

 

 

☆*:.°. .°.:*☆☆*:.°. .°.:*☆☆*:.°. .°.:*☆

 

 

「たゆたえども沈まず」です(・∀・)

 

 

またもこのブログでは異色なのですが、先日上野で行われている「ゴッホ展ーーー響き合う魂 ヘレーネとフィンセント展」に行って来ました。その前に親に観に行くと話したら「じゃあこれ読んでみなよ」と本を2冊渡してくれました。その1冊が本書です。

 

 

本書は「ジャポニズム」で浮世絵が大ブームになった1886年のフランスを舞台に実在した画商の林忠正と世界で知らない人間の方が少ないこと間違い無しのフィンセントとテオドルス・ファン・ゴッホ兄弟の邂逅の物語です。その3人を観察する様に見守るのが架空の人物である加納重吉です。

 

 

画家フィンセントは浮世絵に衝撃を受け、終始敬愛しましたが日本人と交流を持つことは有りませんでした。「もしそうであったらどうなっていたか?」という想像が私たちが周知の歴史と「林忠正とフィンセントのパリ滞在時期は同じであった」という事実に出会ってこの話になりました。

 

 

もし浮世絵が無かったら、「ジャポニズム」が無かったら、果たして画家フィンセント・ファン・ゴッホは誕生し得たのだろうか? と思わずにはいられない。アカデミーと決別した、今までにない描き方、表現方法を真面目すぎるほど真面目にとことん考えたフィンセントには浮世絵がそれらを肯定するものに見えたに違いありません。

まさかお茶碗を包む紙が欧米で超人気になるなんて思わないよなぁ……林は欧米に追いつくことばかり考えてしまい、同時に日本も欧米と同じくらい凄いんだぜ、と日本の肯定感を上げなければならないことに気がつかなかったんだな……まぁ多分誰も気が付かなかったと思うけど……浮世絵が良い例ですが、古いものに新しい高評価がつくのはいつだって未来の話なんですね!

 

 

そしてフィンセントと彼を信じて献身的に支えたテオ。テオの葛藤ーーーフィンセントを信じたいけど信じられない、失望したいけれど見捨てるなんて出来ない、様々な種類の相反する感情をずっと抱いたテオの苦しさに読んでいるこちらも悲しくなりました。自分のリボルバーがフィンセントの自殺の道具になってしまったと知った時の絶望は……。゚(゚´Д`゚)゚。 もうテオが約1年後に亡くなったという事実で涙腺が崩壊します。でもフィンセントとテオの兄弟を信じた人たちが居てくれて本当に良かった。

 

 

朧げにしか知りませんでしたが、作者は美術界に造詣が深いんですね。最新作も「リボルバー」とゴッホものですし……え、自殺説以外に他になんか有るの? 

 

 

「たゆたえども沈まず」でした(・∀・)/ 

次はそんなファン・ゴッホの足跡を追ってみようと思います(*^o^*)/