スタニスワフ・レム No.8◇星からの帰還◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

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たった10年、地球を留守にしていただけだったのに……

 
 

 
◇星からの帰還◇ -Powrot Z Gwiazd-
スタニスワフ・レム 吉上昭三 訳
 
 
いくたの危機を乗り越え、10年にわたる調査探索の旅を無事終了した宇宙探査船プロメテウス号は、ついに母なる地球に帰還した。だが、その10年の間にすべてが変わっていた! 宇宙船時間で10年、しかし地球時間ではなんと127年が経過していたのだ。超高度な発展を遂げた機会文明、複雑化した社会的機構、そして科学技術の粋を結集して異形の都市……。だがなによりも隊員たちを驚かせたのは、理解不能なまでに変貌した人々の心だった!該博な科学的知識と豊かな想像力を用いて構築された未来社会を背景に、文明の発達と人間性の軋轢の問題を鋭くえぐりだした巨匠レムの問題作!
 
 
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ハル・ブルックは宇宙探査船「プロメテウス号」のパイロット。10年の探査の旅は危険と波乱に満ちていた。仲間を幾人も失いながらもなんとか地球に帰ることが出来た。
 
 
ーーーが、空港から降りた瞬間、ハルはとんでもなく様変わりしていることに気がつく。空港がまるで都市のような巨大な迷宮になって外に出ることすらままならないのだ。やっと外に出られたと思ったら超高層ビルだらけで本物の人間と見分けのつかないほどそっくりなマネキン広告塔に出くわし、ライオンまで……
 
 
ハルは自分をコールという男と間違えたナイスという女性から詳しい話を聞く。そこでハルは全人類がベトリゼーションなる医学的処置を受けて暴力性や冒険性を無くしたこと、そしてもう地球は宇宙開拓などしていないことを知るーーー
 
 
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「星からの帰還」です(・∀・)
 
 
レム氏の十八番「人類の理解を超える"我々とは異なる"存在との邂逅」。相手はまさかの同じ地球人です。宇宙の常識で有る、と言ってもいいうらしま効果を受けた人間が地球に降り立ったらどんなことが起こるのか? という質問に答えたかのような作品。
 
 
考えてみれば宇宙の1年は地球では約7年に当たりますからその間、世界は変わっているに決まっています。それこそ今年のコロナコロナコロナ……並の激変が起こったっておかしくない。……もしそれが理解不能なまでに陥っていたら……?という空恐ろしい話。途中までは「あれ、スマホ?」「あれ、電子掲示板?」とよくよく読めば既視感があるのですが(ただし読みにくい)、人の冒険心や暴力性を排除してしまう医学的処置方法が出てくる辺りからおかしくなる。……え、人心掌握? 新しい全体主義? 殺人が起こらないのはそりゃ良いことですが、その気持ちが生まれないようにするって……ある意味人間性の喪失では? しかし最も怖いのはベトリゼーションなるものを国民に処置するように決めた政府の内実や見解は何も読者に明かされないところだと思うんですよね……得体が知れない……
 
 
……しかもSF小説なのに宇宙探査を否定するって史上初じゃない? SF小説の意味ー! 冒険心がないので外の世界に目が行かず、先のうらしま効果による相違や矛盾を埋められないので全く宇宙開拓されていないという現実がハルを打ちのめします。ベトリゼーションは論外ですが、うらしま効果による溝は宇宙進出が普通になれば必ず起こり得る問題だと思うのでいつかこの本が予言者になるかも知れません……
 
 
「星からの帰還」でした(・∀・)/ 
次はメグレの友達が幼馴染が登場!?(*^o^*)/