ティモ・サンドベリ◇処刑の丘◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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"処刑の丘"で再び内戦の煙が燻るーーー

 
 
 
 
◇処刑の丘◇ -Mustamäki-
ティモ・サンドベリ 古市真由美 訳
 
 
かつて虐殺の舞台になったことで〈黒が丘〉と呼ばれた場所で、男たちが処刑と称し青年を銃殺した。警察は禁止されている酒の取引に絡む殺人として処理したが……。事件の影に見え隠れする内戦の傷。敗北した側の人々が鬱屈を抱える町で、公正な捜査をするべく苦悩する巡査ケッキ。正義は果たされるのか。推理の糸口賞受賞。フィンランドの語られざる闇を描く注目のミステリ。
 
 
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大戦終了後の1920年。帝政ロシアの大公国だったフィンランドでは独立宣言を行った直後に激しい内戦が起こった。ロシアのボリシェビキの考えに共感した赤衛隊、ドイツの軍事力を後ろ盾にした白衛隊の2つに分かれた内戦は文字通り隣人同士の殺し合いに発展した。娘テューネを白衛隊の「処刑」によって喪ったヒルダの傷は癒えることは無い。それどころかピルトゥという酒の密輸によって古傷は再び抉られようとした。
 
 
ラハティ市レウナンパルスタ地区にはかつて処刑という名前の虐殺の現場になった〈黒が丘〉と呼ばれる丘がある。そこでまた人が処刑されたように死んだ。ラハティ警察署はちょうど禁止されている酒ピルトゥの取り締まりが行われており、これもその取引絡みだと思われたが、近くに住むロシア人娼婦ヴェーラに惹かれた巡査のケッキはそうでは無いと引っ掛かりを覚える。
 
 
次々と青年が殺される中、彼らは赤衛隊としてビラを巻いていたのが分かる。内戦は白衛隊の勝利に終わった為、赤衛隊派は危険視されていた。ケッキは正義の為に上司の意見を無視してでも独自の調査を続けるが……
 
 
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「処刑の丘」です(・∀・)
 
 
久しぶりの北欧ミステリ、なんと歴史ミステリ。現代社会派のイメージしか無かったので奇襲を食らった気分です。とはいえ、舞台が昔っていうだけで当時の社会の闇を抉り、炙り出すところは一緒です。
 
 
フィンランドはロシアに占領された歴史が長いですが、1917年のロシア革命に乗じて独立宣言を出しました。ところがその際にボリシェビキ派の赤衛隊と親ドイツ派ブルジョワジーの白衛隊の二派に分かれて内戦が起こりました。日本ではあまり知られていないこの内戦は欧米では尤も悲惨な内戦の1つと数えられています。小説の中でも赤衛隊に参加した娘テューネを殺された両親の無念や、白寄りの警察に対する不信感が生々しく書かれています。当時の警察は権力者寄りでした。なんてこったい。
 
 
また本書では犯人逮捕云々の前に、「赤派」だからという理由だけでまともに事件を捜査出来ないケッキの悔しさと焦燥を滲ませています。当時のフィンランドでも政治的な案件が生じると中央警察に捜査権が行ってしまいますが、それは建前であって本当の理由は上です↑ 正義もくそもあったものじゃない……作品のラストは「こんなのありか!?」となりますが、世情を見ると激しく納得。1番強いのはどんなに踏まれても、虐げられても決して屈さず、忘れることだけは絶対にしない一般市民なのです。
 
 
「処刑の丘」でした(・∀・)/ 
次はレオポルド警部、野球をする!?(*^o^*)/