浜尾四郎◇殺人鬼◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

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秋川家を皆殺しにせんと謀る"殺人鬼"の正体とは!?

 
 

 
◇殺人鬼◇ -Satsujinki-
浜尾四郎
 
 
美しき依頼人の登場から幕を開ける連続殺人事件。立ち向かうは名探偵藤枝真太郎と小川のコンビ。しかし大富豪の秋川家で家族が次々と殺されてしまう。果して犯人は誰なのか、二転三転する犯人像。稀代の天才殺人鬼に対する藤枝。冴える推理。動機は?果して生き残るのは誰か?日本推理小説の歴史に金字塔を立てた傑作。
 
 
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4月。銀ブラしていたわたしは友人で名探偵の藤枝と会って喫茶店に入る。藤枝は3時半にお客を迎えるのだがそれまでは暇なので外に出た訳だ。藤枝はわたしにその手紙を見せてくれた。差出人は女の人でそれも深層の令嬢らしい。俄然興味を持ったわたしは藤枝と一緒にその秋川ひろ子に会うことになった。
 
 
秋川ひろ子は秋川製紙株式会社社長令嬢だが、父親は45歳という盛りでいきなり謎の引退をしてしまった。しかもどうも何か怯えているらしい。というものの、赤い三角印の手紙が届いて以来、様子がはっきりとおかしくなったからだ。しかもそれは妹のさだ子にも届いたと言う。一体どういうことなのか……そしてそこひろ子は理知的な美人でわたしはさっそく一目惚れしてしまう。
 
 
ところがその会見中、ひろ子宛に『ウチニカエレ』という謎めいた手紙が届く。ひろ子が藤枝のところへ出向いたことは誰も知らないはずなのに……次いでタクシーを呼ぼうとしたら女のような言い回しで『秋川家のことには手を出しなさんな!』と笑う声が! 不気味さを覚える一同。しかしこんなことは序の口。秋川家の暗い秘密を暴き、一族鏖殺の火蓋が切って落とされた!
 
 
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「殺人鬼」です(・∀・)
久しぶりの本格ミステリものです。それも古典、それも日本。江戸川乱歩と同時期に活躍した浜尾四郎の代表作です。
 
 
浜尾四郎(1896-1935)は前述したように江戸川乱歩や横溝正史らと同年代ですが男爵家の四男で子爵で一高と帝大出身で弁護士のバリバリエリートです。「なんでそんな人が探偵小説を!?」って感じですが、良いよな、書いたって。弁護士という経歴を活かし、非常に論理的で、非常に学者的な文章でこの物語を書いています。難解とも言えます……処女作「彼が殺したか」では法律の無力さに挑んでいてそこが弁護士らしい。
 
 
そうだ、此処で1つ注意があります。
この国の長編探偵小説はヴァン・ダインの影響無しにあり得なかったと言われています。1929年に森下雨村によって紹介され、続いて「グリーン家殺人事件」が「新青年」に翻訳掲載されてからというものの、日本の推理作家は大いに感化されて本格ミステリが生まれ始めました。その一番乗りの名誉を賜ったのが本書の作者、浜尾四郎です。ちなみに2番手は法水の小栗虫太郎です。
 
 
分かる。ヴァン・ダインは確かに凄い作者だった。彼無しにエラリー・クイーンは有り得なかった。例え後半につれてやる気が失速したように変な話になっても、本国がそのことをすっからかんに忘れても我々日本の読者は忘れません。
ですが……だからって「グリーン家殺人事件」のネタバレをして良いって訳じゃ無いからな!!? 目を疑ったぞ!? 何、楽しみ奪ってんねん!? 乱歩、編集するならそこはチェックしなきゃ!
……そんなわけで「グリーン家殺人事件」を読まずに本書をちょいと読んでみようかなーと思っている其処の貴方、この記事閉じて「グリーン家殺人事件」を読みましょう。
 
 
さて、本書。「グリーン家殺人事件」に触発されて出来た作品だけあって見事に沢山人が死にます。藤枝探偵も警察もライバル探偵林田も完膚なきまでに叩きのめされています。此処まで来ると清々しい← そして日本的とも言える忌まわしい遺伝的罪業と親から子へ受け継がれる恨みがどろどろしています……昔の日本探偵小説ってこのテーマ多いよな……恐らく男の名誉を1番傷つけるものだったんだろうな……今もだけど……
 
 
本書でおっ! と思ったのが依頼人ひろ子が非常に頭が良いことです。まさかの「グリーン家殺人事件」も読んでいるし、自分なりに推理もしています。勿論藤枝が論破してしまいますが、実はいくつかはかなり正鵠を射ていました。しかし三姉妹となるとどーして長女と次女の仲が悪いんでしょうね? というかそこは永遠の謎なのね……それもどうなんだ? 終わりまで引っ張ったなら種明かししようぜ……
 
 
「殺人鬼」でした(・∀・)/
次は……こういう時こそ自分と他人に対する「優しさ」や「愛情」を忘れてはいけないんじゃないかと考え、この作品を読みます(*^o^*)/