フェルディナント・フォン・シーラッハ No.1◇犯罪◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




TwitterもといX: 「https://twitter.com/KYoCaTHouWoR
エブリスタ: https://estar.jp/users/153193524

罪を犯すはわたしたちのように弱くて哀しくてしかし愛おしい人々ーーー

 
 
 
◇犯罪◇ -Verbrechen-
フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄進一 訳
 
 
一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。──魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの真実を鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作!
 
 
☆*:.°. .°.:*☆☆*:.°. .°.:*☆☆*:.°. .°.:*☆  
 
 
1.フェーナー氏
  (Fähner)
  ……一生愛すると誓ってイングリッドと結婚したフェーナー氏。しかし彼女は結婚した途端、小言を際限なく繰り返すようになって……
 
 
2.タナタ氏の茶盌
  (Tanatas Teetchale)
  ……実業家タナタ氏から金、腕時計、茶盌を盗んだ悪漢サミール、マノリス、オズジャン。が、戦利品の半分はボスのポコルに取られてしまう。やがて渡りをつけたヴァーグナーとポコルが殺され……
 
 
3.チェロ
  (Das Cello)
  ……実業家タックラーの子どもたちテレーザとレオンハルトは厳しく非人間的な父親から逃げるため、いつも2人だった。お互いにお互いが全てだった。ところが、レオンハルトが事故に遭って……
 
 
4.ハリネズミ
  (Der Igel)
  ……カリムは犯罪者一家の末っ子だ。だが、彼は兄たちと違って頭が良く、それを悟られないよう気をつけて生きて来た。そして自分を何かと気にかけてくれたワリド兄貴が逮捕されそうになった時、カリムのハリネズミの知識を使う時が来た。
 
 
5.幸運
  (Glück)
  ……東欧から不法入国したイレーナは商売中に男が死んでしまい、このままでは強制送還されると恐れる。イレーナのパートナー、カレは男をバラバラにして公園に埋めるが……
 
 
6.サマータイム
  (Summertime)
  ……シュテファニーは恋人アッバスとの愛と生活を守るために新聞の恋人募集欄に広告を出した。それに乗ったのが実業家のボーハイムだ。ボーハイムがホテルから出た数時間後にシュテファニーは遺体となって見つかり、ボーハイムに容疑がかかるが……
 
 
7.正当防衛
  (Notwehr)
  ……金属バットとナイフを持ったネオナチかぶれの青年2人に襲われたところを反撃してその2人を殺したーーー正当な正当防衛だ。しかしその正当防衛を行使した男があまりにも落ち着き払っていること、身元が何も分からないことが腑に落ちない……
 
 
8.緑
  (Grün)
  ……ノルトエック伯爵の息子フィリップは最近家畜の羊の目を抉り出すという奇行を繰り返していた。また本人の様子もおかしい。その上押収されたスーツケースから目玉が切り取られた女の子の写真が見つかり、その少女ザビーネは行方が知れなくなった……
 
 
9.棘
  (Der Dorn)
  ……フェルトマイヤーは35歳の時、市立古代博物館の警備員になった。それから彼の人生は雑音が極端にない静か過ぎる生活になった。それでよかった。彫像『棘を抜く少年』の少年が棘を抜いたのか気になって仕方がなくなり、やがて画鋲をばらまいてはそれを抜く人の写真を撮るようになるまでは。
 
 
10.愛情
   (Liebe)
   ……パトリックは恋人ニコルの背中をナイフで切ってしまう。あれは事故だったと弁解するが聞き入ってもらえない。やがてわたしには打ち明けるようになるが、どうやら愛した人間を食べたくなるーーーカニバリズムの傾向があるようで……
 
 
11.エチオピアの男
   (Der Äthlopier)
   ……ミハルカは銀行強盗の後、外国でやり直そうとエチオピアの首都にやって来た。やがてマラリアに感染したところを助けてくれたコーヒー農園で働きたいと申し出て強盗で手に入れた金でそのコーヒー農園を豊かにし、私生活も明るくなるがそれでも法の目からは逃れられず……
 
 
☆*:.°. .°.:*☆☆*:.°. .°.:*☆☆*:.°. .°.:*☆  
 
 
「犯罪」です(・∀・)
 
 
単行本未収録短編が積み重なると読む機会がなかなか得られず大変です。わざわざ国会図書館に行くので。しかしカズオ・イシグロを読むなら間をもう少しあけたい……と考えて家の引き出しから探しに探して見つけたのが名前だけ気になっていたシーラッハに行き着きました。ちなみに父の本です。黙って借りて後から報告したら説教をくらいました、すみません←
 
 
シーラッハといえば「テロ」で物議を醸しましたが、今までも話題に上っていて今、日本で1番熱いドイツ・ミステリーかもしれません。
 
 
シーラッハはベルリンで刑事事件専門の弁護士として活躍するプロフェッショナルです。そしてナチ関係者(しかも最高指導者)の孫というギョッとする経歴の持ち主でその面で苦労したところもあると思いますが、きっとドイツには「ナチは徹底的に排除する」という風潮とともに「ナチの未来の親族を絶対にそちら側に引きずり込ませない」という風潮も存在するんだと思います。
 
 
そんなわけで本書。ベルリンの犯罪者たちの物語。
……なんかルポを読んでいる気分です。
会話文はほとんどなく、事件の顛末と犯罪者たちのプロフィールが綺麗な文章で書かれています。
本書は「本屋大賞」を取った名作ですが、果たしてこれは小説か!?という意見はあったようです。だけど……文章が綺麗なんですよね。ルポを読んで思わず犯罪者に同情したり、気味悪く思ったり……特に5と11は「よかった……(T_T)」と涙でした。
そんなことただのルポじゃそんな風には思わないでしょう。犯罪者たちは紛れもなく人間で人生があり、喜怒哀楽があり、本当に「翻弄」されたのだと思います。
 
 
犯罪者の物語、というのシムノンも書いていますが、シムノンとは全然違います。重くないし、シムノンの犯罪者にも哀しさは感じますが、愛しさは感じません。
 
 
「犯罪」でした(・∀・)/ 
実は次もシーラッハだったりします←え