1人の男と4人の女。南フランス薄暗い酒場に灯った哀しき愛。
ジョルジュ・シムノン 佐藤絵里 訳
紺碧海岸の酒場でメグレ警視が出会った女性たち。黄昏の街角に残響する人生の哀歌。長らく邦訳が再刊されなかった「自由酒場」が、79年の時を経て完訳で復刊!
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紺碧海岸(コート・ダ・ジュール)にやってきたメグレ。もちろん仕事だ。アンディーブ岬でブラウンというオーストラリア人が殺したのだが、その男は戦争中、軍の情報部で働いていたため、スキャンダルを避けるために派遣されたのだ。
ブラウンは別荘の土の中から発見され、埋めた女2人が拘留された。女2人は母娘で娘の方はブラウンの愛人だ。ブラウンが死んだと分かればオーストラリアに住む正式の妻が財産を全て持って行ってしまうかもしれない。そう考えての隠匿だった。
メグレはブラウンの所持品を調べ、その中からスロットマシンのコインが。コート・ダ・ジュールではスロットマシンは禁止されている。メグレは薄汚れた酒場「自由酒場」に入ってみる。
「自由酒場」の女主人ジャジャとそこに屯する娼婦シルヴィ。別荘の女たちと酒場の女たち。4人はそれぞれブラウンと繋がりがありーーー
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「紺碧海岸のメグレ」です(・∀・)
シムノン作品史上初の単行本カバー←です。論創社から出ている完訳・復刊本で実に79年ぶり。人間の一生分の長さだぞおい……そして本書が1番手に入りやすいシムノン作品だったりします← 本当にメグレの名前だけしか知られていなかったんじゃ……と疑いましたね。あと題名は79年前の「自由酒場」の方が良かったと思いました。
そんな本書の舞台はコート・ダ・ジュール。南フランスの観光地。そんなところでも事件は起こるものでメグレが態々出向きます。
そんな保養地にも黄昏の、薄暗くて埃だらけの場所がある。
暖かな気候に似合わない、薄暗い酒場に屯する女たちの愛情とすれ違いが哀しいです。一方通行の愛、すれ違い、拗れてしまった友情。シルヴィは何も悪くなく、ジャジャも全てが悪いわけではなく、かと言って死んだブラウンを真っ向から責めることもできない……誰が悪いでもない、ただ皮肉にねじれてしまい、(メグレの言う通り)悪い方向に転がってしまった。そんな話です。誰もいなくなり、灯も燈らなくなった「自由酒場」が寂しく見えます……
序盤からさんざん言っていた「波風立てない!」はまぁ、一応遂行できたことになります。またも犯人逮捕しないし。最初はメグレは警視なのに逮捕しないなんて、と頭を傾げましたが、メグレの中では殺人犯=悪人とはまっすぐ結びつかず、殺人犯がこの上なく非力で愚かで哀しく見えるからなんでしょうか……
「紺碧海岸のメグレ」でした(・∀・)/
次はいよいよ最後のアイスランド・ミステリです(*^o^*)/~