ピエール・ルメートル No.4◇天国でまた会おう◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

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死者を厚く弔う傍ら、生きた人間には冷淡。悪意と戦争に翻弄され、絶望した2人はーーー

 
 
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◇天国でまた会おう◇ -Au Revour la-haut-
ピエール・ルメートル 平岡敦 訳
 
 
第一次世界大戦の前線。生真面目な青年アルベールは、ある陰謀により死にかけたところを気まぐれな戦友エドゥアールに救われた。やがて迎えた終戦だが、帰還した兵士たちに世間は冷たい。絶望した二人は犯罪に手を染めるが――『その女アレックス』の著者が放つ一気読み必至の傑作! フランス最高の文学賞、ゴンクール賞に輝いた長篇
 
 
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第一次世界大戦、終戦間際。真面目で臆病なアルベールは上官プラデルの卑劣な罠にかかって生き埋めになってしまう。プラデルは落ちぶれた家を立て直すために対戦を再開させ、フランス兵2人を不当に殺害したのだ。アルベールはそれに気づいてしまったのだ。
 
 
土の中では馬の首と顔を合わせ、命も精神も失われるかと思われたが、なんと気まぐれで不思議なところのあったエドゥアールに助けられる。ところが、1発の弾丸が彼の顔を破壊してしまった……
 
 
戦争は終わった。しかしアルベールには職も恋人も残されていなかった。みんな失われてしまった。顔を破壊されたエドゥアールは頑なに整形手術と家族を拒否し、アルベールを頼る。自分のことすら心もとないのにエドゥアールまで抱え、アルベールに余裕はなかった。
 
 
一方、エドゥアールの姉マドレーヌは夫になったプラデルに弟の遺体を埋葬したいと訴える。父ペリクール氏は息子を喪って初めてエドゥアールを愛していたことに気がつく。墓碑に名前を刻ませてあげたいと考える。
 
 
プラデルは戦没者慰霊碑建立の真っ最中だが、その実態はあまりにも杜撰だった。そしてそれがエドゥアールの考えた戦没者慰霊碑詐欺とかち合った時ーーー
 
 
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「天国でまた会おう」です(・∀・)
クイーン氏が来ないのでフランスです。第一次世界大戦時のフランスです。
 
 
戦争というのは死んだ人は英雄なのに生き残った人は罪人。という風潮が時々出ます。生き残るというのは未来があって素晴らしいはずなのに、人はみんな死者を悼むことに必死で生き残った人には冷たくあたります。本書はその浪をまともにくらった男の哀しい闘いであり、泥にまみれた冒険でもあります。
 
 
真面目で臆病なアルベールはどんどん薬物中毒になるエドゥアールの世話にかかりっきりになり、犯罪にも手を出します。エドゥアールの家族、プラデルにも挟まれて休まるところなし。しかし犯罪には加担するものの、恋人ポリーヌの存在が彼に人間をやめさせません。彼は最後まで人間でした。
 
 
一方、複雑なのはエドゥアール。顔にひどい怪我を負い、家族と遮断し、文字通り「死んだ男」。エドゥアールこそ真の主人公かもしれません。アルベールは語り手。
戦争から命がけで帰ってきたのに世間は死んで戻らない戦没者だけのことしか考えていない。そんな世間に失望、幻滅したからこそ、その戦没者慰霊碑をダシに詐欺を企てたのです。一大犯罪。
エドゥアールは思わぬ最期を迎えますが、エドゥアールは父に何を思ったのでしょうか。最期にはっきり見たと思うなら。決別した父親の車に撥ねられて搔き乱したかったのか。それとも。
 
 
悪党プラデルについては卑劣で下劣としか言えませんが← 生きている人の尊厳も死んだ人の尊厳をも踏みにじったという点でここまで下衆な奴も珍しい。
題名にもなった「天国でまた会おう」が哀しく思えます。敵前逃亡という汚名を着せられ、名誉とその兵士の人間性が捻じ曲げられたことに憤りを感じると同時に無実が証明され、名誉回復されたことに喜びを覚えました。
あと爆弾になる墓地の報告書を書いた役人メルランの果てが意外でした。
 
 
「天国でまた会おう」でした(・∀・)/
次はエラリー、最後の短編集です(*^o^*)/~