三沢陽一◇致死量未満の殺人◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




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15年前、雪に閉ざされた山荘で起こった毒殺事件。その真実とは?

 
 
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◇致死量未満の殺人◇
三沢陽一
 
 
雪に閉ざされた山荘で、才色兼備で鳴らした女子大生・弥生が毒殺される。
容疑者は一緒に宿泊していた同じ大学のゼミ仲間4人
――龍太、花帆、真佐人、圭。
外の世界から切り離された密室状況で、同じ食事、
同じ飲み物を分け合っていたはずなのに、
犯人はどうやって弥生だけに毒を飲ませることができたのか。
警察が到着するまで、残された4人は推理合戦を始める……

そして15年後の雪の降る夜。
花帆と夫の営む喫茶店を訪れたのは、
卒業以来、音信不通の龍太だった。
あと数時間で時効を迎える弥生の事件は、
未解決のまま花帆たちの人生に拭いきれない影を落としていた。
しかし、龍太はおもむろに告げる。

「弥生を殺したのは俺だよ」 

たび重なる推理とどんでん返しの果てに明かされる驚愕の真相とは? 
 
 
☆*:.°. .°.:*☆☆*:.°. .°.:*☆☆*:.°. .°.:*☆
 
 
日本の刑事事件に「時効」があった頃。
 
 
喫茶店を経営するわたしのところに卒業以来、音信不通だった友人、龍太が尋ねてきた。
「弥生を殺したのは俺だよ」と言う言葉と一緒に。
 
 
15年前、大学生だったわたしたちはある殺人事件に巻き込まれた。ゼミ仲間の弥生が毒殺されたのだ。わたしたちは機会面、動機面からして最も有力な容疑者だった。
 
 
龍太はどうやって弥生だけに毒を盛ることができたのか? 時効数時間前、龍太はゆっくりと語り始める……
 
 
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「致死量未満の殺人」です(・∀・)
 
 
本書は海外からの推理小説、それ以外の小説、エッセイや専門書等を翻訳・出版することに定評のある早川書房が2011年に立ち上げた推理小説新人賞、アガサ・クリスティー賞の第三回受賞作品です。
 
 
かなり気になっていたんですよ。早川書房は東京創元社と並んで推理小説、たくさん発刊・復刊してますし。この2つの出版社のおかげでわたしの読書生活は楽しいです。
 
 
アガサ・クリスティー賞はかなり歴史の浅い新人賞です。ちょっと歴代の受賞作を挙げてみます。
 
 
2011年:森晶麿『黒猫の遊歩あるいは美学講義』
2012年:中里友香『カンパニュラの銀翼』
2013年:本書
2014年:松浦千恵美『しだれ桜恋心中』
2015年:清水杜氏彦『うそつき、うそつき』
 
 
あらすじを読む限り、話の系統は全く違います。特に『カンパニュラの銀翼』は幻想的な香りがするし、『うそつき、うそつき』は近未来が舞台なこともあってSFチックなところがあります。『しだれ桜恋心中』は日本独自の文化である文楽人形が登場し、『黒猫の遊歩あるいは美学講義』は「黒猫」と呼ばれる若い教授とその付き人によるバディものです。
 
 
その中で本書は。非常に正統派です。
告白から話が始まるので謎として提示されるのは「フーダニット」でもなく、「ホワイダニット」でもなく、どうやってそれを遂行できたのか? という「ハウダニット」です。
 
 
だけどそれは……この話の第1段階に過ぎなかったのです!
謎はそれだけに非ず。驚くべきのはその後だ! 
告白だけで終わるわけがなく、それどころか真相という毒が効き始めるのはその後からなんです。読み終わる頃には毒が全身に回り、題名の意味が分かります。付け加えると受賞当時の題名『コンダクターを撃て』の意味も分かります。個人的にはこっちの方が恐ろしかった。
 
 
犯人、龍太が告白することから始まるのでこの話は「倒叙」ものです。これで大事なのは被害者の人物像だと思います。
 
 
被害者弥生はまー、マジでありえねぇひっどい女で龍太が恨むのは無理もない。しかし本当にひっどい例もあって弥生がやらかしたことはれっきとした犯罪で重罪だし、殺しても同情余地あるんじゃない? って思ったよ!
というか、こういう人間は命奪うよりも命あるまま社会的制裁を加えた方がずっといいと思います(爆)リスクは少ないし、効果は絶大。
 
 
この話はきっぱりすっぱりはっきり言うと「この女、どれだけ恨まれていたんだ……!?」に尽きます。
読んでいて気がついたのですが、結果的に弥生とその死に関わって15年間、本当に幸せだった人っていないんですね。龍太はもちろん、花帆たちにも重く、長い影を落としました。
 
 
弥生がいなければ、その死に関わらなければずっと無関係に幸せでいられたわけでそう意味では彼らの人生は弥生と弥生を殺したかった人たちによってめちゃめちゃになってしまったのです。
 
 
知らず知らずに。ただあの日、集まってしまったばっかりに。
 
 
なのでそれでも人殺しはいけないことなんだよと思わずにはいられないのです。
 
 
「致死量未満の殺人」でした(・∀・)/
お次は約束通りアシモフとラッキーです(*^o^*)/~