夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬がきて、春になった。
あゆは、2年生になった。
2年生になってもクラス替えもなく、担任も変わりなく、あゆの状態はそのままだった。
楽しい事が一つだけ増えた。
夏休みに父親の会社の合宿に参加してから冬休みも春休みも合宿に行った。
声を普通に出せる環境がとても楽しかった。
合宿で友達ができるのが楽しかった。
2年生になってもあゆは、学校に行きたくないとは言わないままだ。
それどころか毎朝、妹たちの誰よりも早く起きて制服に着替えて準備をしながら1年生になったばかりの妹のサチを起こしていた。
「サチ!早く起きないと学校に遅れるよ!早く!早く!」
とても学校でイジメられていたり、友達がいないような子のとる行動には見えなかった。
今日もあゆは、何もない顔をして普通に学校へ通う。
話したいという思いを抱えながら。
学校に着いたら友達もいないのですることが何もない。
なんとなくクラスの様子を眺めるだけの日々だった。
いつものように同じような風景があゆを横切る。
話したいな。
話したいな。
話せない。
話せない。
クラスメイトを見ながら毎日同じことを考える。
朝の会が始まる前にみんなは、宿題を提出しているが、あゆは宿題をやってきてないのでいつも出さないままだった。
あれ??
あゆは違和感に気がついた。
石井くんがいない!!!!
「今日は、石井くんがお休みです」
先生の声にあゆの心の中は、一気にお祭り気分になった!
やった!!
今日は、いないんだ!!
石井くんがいない日は、あゆの心が平和で満たされていた。
こんなに学校に居やすいなんて!!
何もされないって何て気楽で幸せなんだ!
こんな毎日がずっと続けばいいのに!
彼がいない時は、学校生活が気楽で仕方なかった。
その日だけは、自由になれた気がした。
石井くんがずっと休みだったらいいのに、そんなわけにはいかない。
次の日に石井くんが来ている姿を見てあゆは、またいつもの日常がきたと気持ちを落としたが、半分はもう諦めていた。
「ねぇ、ねぇ、お母さん、転校したいよ」
あゆは、この時期からしきりに母にそう言うようになった。
「そんなこと、できるわけないでしょ!」
その一言で終わってしまう。
だけどあゆは、しつこく母にうったえた。
あゆに出せた精一杯のSOSだった。
イジメられていることは、話せない。
「この事、誰にも言うんじゃないぞ!」
石井くんの言葉があゆに本当の事を言うのを拒否させていた。
もし話したらもっともっとイジメがひどくなる。
恐怖で母親に伝えることができなかった。
それに転校したら学校で話せるような気がしていた。
合宿で話せたことが、知らない人の前でなら話せるという確信に変わっていたのだ。
何度も何度も伝えても母親の答えは同じだった。
そのうちあゆは、言うのをやめた。
そして何も言わずに学校に通い続けた。