当たり前の状態に浸ること―「どこかでベートーヴェン」 | ほんだな

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課題図書:「どこかでベートーヴェン」中山七里(宝島社文庫)

 

 岐阜県立加茂北高校音楽科のひとクラスを舞台とした殺人事件ミステリー。謎の新入生、ピアノの神童、鴨洋介(みさきようすけ)が突如現れる。有り余る彼の才能をうらやましく思い彼にちょっかいを出していた同クラスの岩倉智生(いわくらともお)が不審死する。そして、あらぬ嫌疑が岬にかけられる。その後、彼の後見人の鷹村亮(たかむらりょう)を中心に、クラスメイトの関係が滅茶苦茶にかき乱されていく。

 

 以上があらすじ。中山七里の音楽モノのミステリー作品シリーズ。ミステリー要素よりも、高校生の音楽に向き合う姿勢が非常に勉強になる。

 

 音楽で食っていくことを夢見てたが挫折した高校教員・棚橋が、殺人事件に見舞われ、かまってちゃん化したクラスの生徒に向かって、熱い一言。
 
 そんな(この音楽科に属しているという安泰な)気持ちで、音楽に向き合っていたら、将来痛い目に遭う。結局は、他者の才能をうらやんでいて努力をしようとしない。矛盾するが、どれだけ努力をしようとも、花咲かない奴もいる。それだけ才能は無情なモノだ。けれども、努力しないで、ただ、当たり前の環境に浸っている奴が一番最悪なんだ。

 

 と、仰るとおりのこと、けれども、学生以降の、大人の階段を上ろうとする人間に、熱いメッセージを送っている。ミステリものなのに、この人生論を伝える技術は巧み。

 

 音楽科しかり、様々な高校や大学生生活を送っている人間にも、この論理は言えるのではないだろうか。この偏差値の高い学校に所属していれば、学業さえしっかりとしていれば、それなりの安泰した進学先・就職先・専門職にたどり着くことができる。

 

 といいつつ、世渡り上手な人もいる。流れに身を任せて、それなりの社会的ステータスを得ている人もいます。けど、そんな人生が一番つまらないんじゃない。

 

 「当たり前から離れること」。

 

 そういう境遇にあってしまった人。逆に、そういう選択肢を取った人も、肯定すべきじゃね?。そんなことを感じてしまった、そんな一冊。