空中庭園 / 角田光代 | 活字中毒

空中庭園 / 角田光代

第3回婦人公論賞の受賞作品です。2005年には小泉今日子さん主演で映画化 されています。


とある郊外の団地で暮らす京橋家が話の中心になっています。父・貴史、母・絵里子、長女・マナ、長男・コウの4人暮らしです。京橋家では「何事もつつみかくさず、タブーをつくらず、できるだけすべてのことを分かち合おう」という考えを基本ルールとしています。おかげで高校生の娘・マナは自分がラブホテルで仕込まれた子どもであるなんて、不要な情報まで知ってしまう始末。一見オープンに見える家族関係にも実はよく見るとひとりひとりが抱えている秘密があり、決してオープンにはなっていなかったりします。そんな家族を1人づつの目から書いた作品です。


ストーリーは6つの章に分かれていて、家族4人に加えて絵里子の母であるさと子と、貴史の愛人である三奈の2人の視点からの話が綴られています。愛人がいる時点で、父・貴史には家族に言えない秘密があるのでルールなんて守れていないわけです。他の3人も同様。一見なんでも明るく隠さずに話しているオープンな家族に見えても、実はそれぞれが隠し持っている秘密のドアがあって、そこは決して家族に晒されることのない場所になっている。家族の光と闇の部分のようなもの、そういうところがとても上手にそしてコミカルに描かれています。


家族って不思議な存在ですよね。確かに一番わかりあって、理解しているようで、意外とそうでもなかったりする。私もどちらかというと実母とはオープンな関係だと思います。なんでも相談してきたし、いろんな話をしてきた。でも、きっと思い返してみれば秘密の1つや2つくらいあったのかも。なんでも包み隠さずなんて、現実には無理なのかもなぁなんて思いながら読んでいました。本当に「包み隠さず!」をしていたら、家族崩壊だってありえるかも!?


空中庭園というタイトルを最初に見たとき「そういえば大阪にそんな観光名所 ?があったなぁ」なんて想像したんですけど、おそらく(いや、絶対に)関係ないですよね。絵里子の趣味がベランダでしているガーデニングなんです。きっと団地のベランダという場所でガーデニングということで空中庭園なのではないかと・・・。絵里子は必死になって理想の家族を作ろうとしていて、その1つがベランダでガーデニングなわけです。そこで絵里子の闇とも言える部分を垣間見てしまった気がします。実の母親に対して持つ、深いわだかまりみたいなものが絵里子の人生を動かしているような気がしてちょっと怖かったです。


もしくはバビロンにあったと言われている空中庭園でしょうか・・・。昔、バビロンには空中庭園と呼ばれた場所があったそうです。実際に空中にあったわけではないのに、あまりの大きさに遠くから見ると宙に浮いているように見えたとのこと。別名「架空庭園」とも言われたそうですよ。表面はとても仲がよさそうに見えて、実は架空の仲の良さみたいな感じが京橋家にはあるなと私は感じました。どんな意味を含ませてこのタイトルをつけたのか、ちょっぴり気になるところです。


タイトル:空中庭園

著者:角田 光代

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