水の中のふたつの月 / 乃南アサ | 活字中毒

水の中のふたつの月 / 乃南アサ

十数年ぶりにかかってきた幼なじみからの電話をきっかけに、封印したはずの過去の記憶が再び蘇ります。彼女たちの不思議な癖はすべて過去の記憶につながっている。普通の日常を描いているのに、なぜか背中がぞくぞくする気味の悪さをもった作品でした。

主人公の亜理子はスケジュール帳をいっぱいにして自分を忙しくしておくことが好きなOL。幼なじみの恵美から十数年ぶりに電話をもらい、梨紗も誘って幼なじみ3人組で会う約束をします。仲良し3人組が復活したとき、封印したはずの過去の記憶が蘇ります。少女たちの真夏の夜の記憶。失踪した少年。誰にも言わないと少女たちがかわした約束。少女たちがした秘密の約束とはいったいなんだったのか。すべてが明かされたとき・・・。


アリンコ、メグ、リサは小学生の頃の友人。3人はいつでも仲良く遊んでいたのですが、ある夏の出来事を境にばらばらになっていきます。そして、十数年後に再開したとき、お互いに今まではなかった奇妙な癖を持っていることに気がつくんです。アリンコは「忙しくしている自分」が大好きで、暇な時間があることが我慢できないという癖。メグは誰もが嘘だとわかるような、大きな嘘をつく癖。リサは潔癖症でしょっちゅう手を洗いたくなる癖。どれも日常に隠れているとそれほど大きな影響を及ぼさないのですが、すべてがあの夏の記憶につながっているとわかったとき、背中がぞっとしました。彼女たちの今は、すべてあの夏の記憶が作っているといっても過言ではないと思います。


幼い頃の記憶がここまで人間の成長に影響を及ぼすのかと驚くと同時に、罪というものに対する意識の薄さに恐ろしさを感じました。ごくごく普通に暮らしているはずの隣人が、彼女たちのような人間の可能性もあるんですよね。日常に近い話なだけに、ありえないとは言えない恐ろしさがありました。かなり怖かったです。

タイトル:水の中のふたつの月
著者:乃南 アサ
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