「ながらくだ」の夢は夜開く |  CHOCOLATE YELLOW 

「ながらくだ」の夢は夜開く

太田裕美 “恋のハーフムーン”

 

先日友人が出張で、
新幹線に乗って山口に行くとLINEが来ました。
「のぞみ」で4時間半くらいかかるらしい。

「僕だったら早く家を出て「こだま」で
テレテレ行きたいんだけどね」とわざと言ってみたら
「乗るわけないだろ!」と返ってきました。

そんなやり取りのあと「のぞみ」が世に出た時の
衝撃を思い出しました。

「こだま」と「ひかり」の名称は
「音速」と「光速」じゃないですか
そのスピードの違いのニュアンスを科学的な背景を持ちつつ
誰にでもわかる表現をして、
さらにひらがな表記でよりPOPに。
すごくセンスあるなと子供心に思っていたんですよ。

しかし「光」を出してしまった以上、
それにも勝るスピードを持つ
物体はないわけですよね。ない…というか、
大衆がサッとイメージできるものがないというか。

元々「スーパーひかり」と言われていたのもあるけど
あとは形容を足してゆくしかないだろうと思ってました。
「キャンディーズ・ジュニア」みたいに。

そんなことを漠然と思っていた中「のぞみ」が出たんですよ。

命名理由に関して「希望になるように」みたいな説明を聞いて
あぁ、もう速さについてのルールを守らなくてもいいんだと
僕の思考のしばりから開放されたのを記憶してます。

しかしそれを知った上でも、これは依然
速さについての表現じゃないのかとも思わされたんですよね。

希望の意味の「希む」とか「望む」は一瞬じゃないかと。

光といえど、太陽から地球に届くまでに
8分19秒かかるんですよね。

でも思念とかは一瞬じゃないですか。

太陽を想うまで「8分19秒かかりました」という人は
医師に相談した方がいい。

信念、情念、怨念、概念、観念、疑念、雑念、邪念、執念…
あと、有馬記念(スベッた…)。

「今の心」と書く「念」は大抵、
もうそこにあるものだったりして。
「のぞみ」こそ究極の瞬間移動じゃないかと深読み出来ました。


世俗的な話では「テレポーテーション」とか
「ワープ」という言葉は
ウルトラマンとかヤマトに登場する事もあり、
瞬間移動でないにしろ「近道」で使う事がよくあります。

この「遅さ」との対比で、
速いものを「ワープ」と言い切ってしまうロマン。

つまり「遅さ」を印象付けていたら
速さにありがた味が生まれる。
逆に、速い事が当たり前になっていることが
一番不幸にさせているのかも。

青春18きっぷの好きな僕にとって、すでに
「のぞみ」「ひかり」「こだま」の分類は天文学的スピード。

静岡県を3時間半もかけて各駅停車で通過する横断の旅に
並走してビュワンビュワンと追い抜いていく新幹線は
「こだま」だったとしても充分GOD SPEEDに見えます。
「こだま」でもテレポーテーション感が持てるのだ。

実は青春18きっぷにも「関東ワープ」「関西ワープ」など
ワープがあるんですよ。
関東ワープで言うと例えば湘南新宿ライン。
関西ワープでは静岡県の浜松駅~兵庫県の姫路駅までの区間。

特別料金を払わずにいくつかの駅をスキップ出来る快速列車は
青春18きっぷで利用可能なので、
快速を軸に逆算して利用するとより早く、より遠くへ行けます。

もはや「こだま」以下のスピードでもワープはあるんですよね。


「速さ」は感じるものだから
数値より「意識」が大切なんですよね。

この意識は、さらにゼロにするともっと速いんですよ。

ゼロ? …寝る事です。

青春18きっぷのファンには有名な移動手段ですが、
「ムーンライトながら」という東京駅~岐阜県の大垣駅を繋ぐ
夜行快速列車があるんですよ。

これは23時台の深夜から早朝にかけて走るので
青春18きっぷの利用者には効率がいいんですよ。

寝台車じゃないけど、座ってても眠っていれば、
距離の長さと向き合うことがないので、一瞬で着く感じがする。
夜行バスと同じ感覚なんですよね。

夜行バスといえば、東京と鳥取を結ぶ「キャメル」があります。
僕が青春18きっぷを利用したのは2014年でしたので、
それまでの20数年は夜行バスを利用していました。

「らくだ」の歩み…スピード感とは対極のネーミングでした。
それでも尚且つ、眠っていたら魔法の様に目的地着くのだ。

この「ムーンライトながら」と「キャメル号」なのですが、
2021年に入って廃止が発表されました。

すぐ察することが出来ますが理由は新型コロナウィルス。
いずれも去年の夏くらいから運航休止していてそのまま
再開することなく廃止となりました。

サヨナラも言えないままお別れになるというのが
もはや人間だけの世界ではなくなっているんですよね。

「ムーンライトながら」は毎回満席で結局乗れないままでした。

夜行バスの「キャメル」は僕のスタンダードな帰省方法でして
片道料金もリーズナブルなんですよね

飛行機、または新幹線+列車だと片道2万円になります。
夜行バスがその半分の1万円。

ものすごく時間が掛かるけど
青春18きっぷは2000円、二日かけて4000円。

僕みたいなマニアックな人は青春でいいんですが、
一般の鳥取県民にとって一番安いバスの選択肢がなくなり
倍くらいのお金を払っての帰省になります。

鳥取だけでなく、全国的に夜行バスの廃止もチラホラあるし
どんどん速い乗り物が開発される一方で
ふるさとが少しずつ遠のいている感じがします。

そうなると本当に故郷を望むことしか出来ないのだろうか。

それよりずっと前ですが、僕が上京した時は
寝台特急「出雲」に乗りました。

それは廃止にはなっていないのですが、2006年頃に
「サンライズ出雲」となって経路が変わってしまったんですよ。

昔は京都から山陰本線に乗って、鳥取を経由して出雲に
行ったのですが、今は京都から大阪→岡山と山陽本線に回り
鳥取県では米子駅を停車するだけになりました。
米子は鳥取から列車で2時間半かかるので遠回りになる。

理由は人口が少ない地域ではビジネスにならないという事で
第二ベビーブームから下り坂になり、人口が減ったところから
どんどん利用者が減ったんだと思います。

僕等鳥取市民の視点では、寝台特急出雲自体が
どこかにワープしてしまったように思えます。

お陰様で岩手県と鳥取県がコロナウィルスの感染が少ない地域で
争っていますが、そりゃそうでしょうね。
本当に陸続きなのに島民のようですよ。

岩手県と言えば、大瀧詠一さん。
今日は『A Long Vacation』が発売になって丁度40年目の日です。

確か国内で初のコンパクトディスクが作られたのも本作。
洋楽ではビリージョエルの『ニューヨーク52番街』。

非常にそのCDという新しいメディアに対するサンプルとしては
もってこいのサウンドではあります。

1970年頃にFMが開局して、音楽の主流がモノラルから
ステレオになり、カーステレオや、ウォークマンなど、
外に音楽が持ち出されるようになって、結局は音楽自体も
心を歌うものから、リゾートソングのように情景を歌うものが
多くなりました。

80年代が表層的な美意識のかたまりのように語られることも
よくありますが、これにより人々の関心が
作詞作曲よりもアレンジとか、ミックスとか、
イメージ映像に広がったりすることで、
クリエイティブなポイントが
拡張した転換期だったからだと思います。

このタイミングで、コンパクトディスクとロンバケ。
運命としかいいようがありません。

そして僕はもう一つ補足したいのですが、太田裕美さんで
一番好きな曲があるんですよ。もう80年代なんですが。

『恋のハーフムーン』です。

後の聖子さんの“秘密の花園”のような
ピチカートストリングスのと粒立ちとハープが心地よい、
キュートなポップスです。
大サビが割と早くくるところで、そろそろ終わりかと思わせて
そこから2番が始まるみたいな構成も刺激的でして
それをオーバープロデュースとか言われていますが、
そんなのも含めて好きでした。

また、B面の“ブルー・ベイビー・ブルー”も超名曲。
最高のカップリングです。

この『恋のハーフムーン』の発売日が、1981年3月21日。
つまり、40周年になった『A Long Vacation』と同じ40周年です。



さらに言うと作詞作曲がいずれも、松本隆/大瀧詠一なので。

『A Long Vacation』は『恋のハーフムーン』がついて
コンプリートになるんですよ。

『A Long Vacation』の“FUN×4”では
「♪散歩しよ~」ってワンポイントで太田裕美さんの
ボーカルが入っていますし、完全に姉妹品です。

思い出はモノクロームといわれますが、
こうやって音を聞いて振り返ると、まだ色がついて、
羽が生えてあの時代に飛んで行けます。
ワープ!

かつてディープインパクトに乗って勝利した武豊さんは
「走っているというより飛んでいるようだった。」という
名言を残していたのですが、
あれはきっと奥様の力が働いたんじゃないかと思うんですよね。

「量子テレポーテーション」…これで有馬記念の回収が出来た。

 ※知らない人のために、
  武さんの奥様は佐野量子さんと言います。
 

太田裕美 “ブルー・ベイビー・ブルー”