Biographical Warrior(伝記の武者) ~ベムカメSHOW 2019.10~
Elton John “Crocodile Rock”
僕が人生で初めて好きになった曲についてここでよく話します。
クリスティーの“イエロー・リバー”と、ドーンの“幸せの黄色いリボン”。
これは僕が幼稚園に行く前の時代から、母親がエアチェックしたFM番組
「色の特集」をよく聞いていたからです。
黒や赤や青がタイトルに付く曲に比べて黄色のつく歌は明るくて
ポップなものが多い。特にこの2曲が大好きでした。
20才くらいになって、母親にあのカセットテープが聞きたいと言って
引き出しから取り出した時に、驚きの発見があったんですよ。
母が録音しかけて中断したであろう痕跡があったんですよ。
その中断した曲は、頭に巻き戻し、次の曲から上書きで録音したので
カセットには入っていなかつたのですが、
インデックスを見ると、消しゴムで消したけど
鉛筆の筆圧でうっすらと残っていた曲名がありました。
その曲名も実は黄色の歌だったんですよ。
「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」
エルトン・ジョンの代表作。
どうやら母はあんまり好きな曲じゃなかったらしく録音を中止したようです。
母のその判断により、僕はこの時点で曲を知るチャンスを失ったのですが、
中学か高校の時にラジオでようやく知る事になります。
母と僕はよく音楽の趣味が一致するのですが、
“グッバイ・イエロー・ブリック・ロード”は
実は僕にとっても嫌いな曲だったんです。また一緒かと思った。
簡単に言うとオールド・ロックンロールが好きなので、
その曲にはその要素が全然ないからです。
子供心に、寂しく、空しくなる曲。「黄色に謝れ」ってくらい嫌いでした。
この曲が好きになるのは30才を過ぎてからです。
…とは言え、母や僕がエルトン・ジョンが嫌いかというとそうでもないんですね。
エルトンに纏わる別のエピソード。
小一の時に学校から帰ると、昼下がりのFM番組で新しい洋楽を仕入れた母から
「いい曲が手に入った」と僕に聞かせてくれたことがありました。
それはまだ実家にある黄色いカセットテープ。
母がラッションペンで乱暴に描いたタイトル「ロックンロール」。
同じタイトルのカセットテープが沢山存在するので色で見分けるしかない。
1曲目はニューレコーディングのポール・アンカ“ダイアナ”。
それからニール・セダカもあったかな。
時代がどんどん進み、70年代にいきなり入るのですが、
ポールアンカの時代にはない奇妙なシンセの音のロックンロールが
始まったんですよ。
“クロコダイル・ロック”
ぅわ~!大好き~!ついでに言うと、その次の曲はもっと好きで
エレクトリック・ライト・オーケストラの“ロールオーバー・ベートーベン”。
70年代にもまだオールドロックンロールはあるんだって嬉しくなりました。
クロコダイル・ロックというのは、物語の中の架空のダンスの名前で
15年くらい前にロックンロールが全盛期だったころを懐かしんで
当時一緒にこのダンスを編み出した女性の事(おそらく当時の彼女)も
懐かしむような歌詞だったんですよね。
オーストラリアでヒットしたダディークールの“イーグル・ロック”に
影響されて、「イーグル」という動物の名前を「クロコダイル」に
すり替えて、パロディー感を出しています。
でも曲は全然違うタイプのロックンロール。
“クロコダイル・ロック”の翌年位に映画『アメリカン・グラフィティ』公開。
同年にビーチボーイズ往年のヒット曲を集めた『終わりなき夏』の
ベスト盤が発売になり全米1位。
どちらも最後の曲が“オール・サマー・ロング”。
これでロックンロールはリバイバルするんですよ。
さて、10/2(水)はベムカメライブがありました。
もう12周年です。今回もたっぷり3ステージ。
10月なのにアロハです。
最初のステージはポップスナンバー中心です。
【1st ステージ】
♪ロック・アラウンド・ザ・クロック/ビル・ヘイリーと彼のコメッツ
♪恋の片道切符 ~One Way Ticket To The Blues~/ニール・セダカ
♪この胸のときめきを
~You Don't Have To Say You Love Me~/エルヴィス・プレスリー
♪ダイアナ/ポール・アンカ
♪リトル・ダーリン/ザ・ダイアモンズ
♪砂に書いたラブレター ~Love Letter In The Sand~/パット・ブーン
♪悲しき足音 ~Foot Steps~/スティーヴ・ローレンス
♪ミスター・ベースマン/ジョニー・シンバル
♪ヒッピー・ヒッピー・シェイク/スウィンギング・ブルージーンズ
♪ホール・ロッタ・シェイキン・ゴーイン・オン/ジェリー・リー・ルイス
砂に書いたラブレターでは、カメちゃんが前奏と間奏で口笛を見事に
吹き切りましたが、あまりにも上手すぎて、お客さんからは
キーボード演奏による口パクだと思われたようです(笑)。
珍しい曲といえば、一番最後のジェリー・リー・ルイスの曲。
ベムカメでは1年に1度やるかやらないかですよ。
もう20年近く前ですが、サン・レコードのトリビュートアルバム
『グッド・ロッキン・トゥナイト』が出て、ポール・マッカートニーが
“ザッツ・オール・ライト”を歌ったり、トム・ベティーが
“ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー”を歌ったり、
ジェフ・ベックが“ミステリー・トレイン”を演奏したり、
中々充実のアルバムですが、エルトン・ジョンがピアニストらしく
“ホール・ロッタ・シェイキン・ゴーイン・オン”をやったんですよね。
Elton John “Whole Lotta Shakin' Goin' On”
先月、レイトショーでエルトン・ジョンの
伝記映画『ロケットマン』を見に行きました。
「伝記」という言葉のニュアンス。子供のころからその響きは
エジソンなり、ニュートンなり、野口英世なり
偉人と呼ばれる主人公のイメージが強くて
幼少時代からの才能の芽生え、何かを実現するための困難と努力、
そして人には気づかない発想力と観察力を経て、達成して行き
人類に役立つその足跡は、そのまま人類への愛そのもののように語られます。
でも「伝記」は美しいものではなく、ニュートラルに「伝え記す」もの。
美しくなくったっていいんですよ。
近年のロックスター達の伝記映画は決まって、演出はファンタジーでも
物語としてはリアリズムにこだわって、悪いところも見せるのが
ステータスになっています。
エンターテイメントの人はゴシップの餌でもありますからね。
ロックとスキャンダルは切り離せないもの。
舞台裏すらも舞台というのが、大方の物語の筋ではあります。
エルトンの話の前に、ロックスターの伝記映画の歴史について。
ジャン&ディーンの伝記映画『夢のサーフシティー』。
ジェリー・リー・ルイスの伝記映画『グレート・ボールズ・オブ・ファイア』。
ロックスターになって、そして転落してゆく流れは同じです。
当然アメリカ映画ですから、結末はまた希望あるように描かれます。
もう一つは1987年のリッチー・バレンスの伝記『ラ・バンバ』。
こちらは人気の下降はないのですが、人気絶頂のさなかに
飛行機の墜落事故で死んでしまうという実話をもとにしていて
悲劇で終わります。
これらに共通するのは、音楽をそのままのアレンジで演奏したり
あるいは原曲をそのまま流したりしているところです。
21世紀になると、少し面白い傾向が見られます。
ロックスターの曲だけで構成する伝記ではないヒューマンストーリー。
伝記映画とはまた違ったアプローチです。
一つは映画ではありませんが、ビリー・ジョエルの曲を盛り込んだ
ミュージカル『ムーヴィン・アウト』。
これは“イタリアンレストランで”の組曲を主軸にした
ビリー・ジョエルが登場しない、架空の登場人物の物語。
ただし使われている曲は全編ビリー・ジョエルなんですよ。
もう一つはビートルズの曲で物語を作った映画『アクロス・ザ・ユニバース』。
こちらはもう少しあざとくて、主人公がポールとリンダにそっくりで
登場人物の名前もルーシーとかマックスウェルとか、曲名に出てくる名前を
遠慮なく使っています。
ただ、ビートルズとは関係ない登場人物でありながら、ビートルズの曲が
ミュージカルスタイルで、物語の中で終始登場します。
最後はルーフトップで歌を歌うのだ(笑)。
これもコアなファンにはわかる謎解きのような映画でして、
伝記とは違ったアプローチでありました。
どちらにも言える事は、曲のアレンジがミュージカル用にデフォルメされて
原曲を大きくいじっているところです。
さて、ベムカメ、スタンダードな1stステージの次は
変化の2ndステージです。今回もクールにスタート。
【2nd ステージ】
♪ハートブレイク・ホテル/エルヴィス・プレスリー
♪浮気なスー ~Runaround Sue~/ディオン
♪ツイスト&シャウト/ザ・ビートルズ
♪オンリー・ユー/ザ・プラターズ
♪煙が目にしみる ~Smoke Gets In Your Eyes~/ザ・プラターズ
♪キッスは目にして/ザ・ヴィーナス(ゲスト:中村詠子)
♪グッド・ゴーリー・ミス・モーリー/リトル・リチャード
♪マイ・ガール/ザ・テンプテーションズ
♪ポエトリー・イン・モーション/ジョニー・ティロットソン
♪ジョニーBグッド/チャック・ベリー
♪ラ・バンバ/リッチー・バレンス
ジョニーBグッドなんて、全国津々浦々アンコールのラストの印象が
強いので、ここで帰り支度されると困る(笑)。
ちゃんとリカバリーでラ・バンバがあります。
そして途中に12月のゲスト、中村詠子さんが来られました。
次の日曜10/6(日)の13:00からBE-bornで、詠子さんとベムさんによる
昭和歌謡バンドDeja Vuのライブがありります。
The Four Seasons “Seasons of Gold”
さて、エルトン・ジョンの伝記映画『ロケット・マン』です。
構成からいうと彼のヒストリーは回想シーンとして描かれています。
つまり回想しているのは、ある一定の期間を過ぎたエルトン。
これが恐らく薬物依存の施設に入所しているエルトンで、
どうしてこうなったかを幼い日の体験、才能と、成功、荒れる私生活、
裏切り、あるいはゲイである事への社会の目と自分の目。
それを時々施設のシーンに戻りながら、回想していきます。
曲はエルトンの曲が使われますが、リリースに合わせて、時系列に
沿った曲の並びではなく、歌詞の内容に一番ピッタリの場面に使われます。
だから、まだデビュー前の学生なのに、ヒット曲を歌ったりしています。
曲のアレンジはものすごくデフォルメされていて、ボーカルも子供や
他の登場人物に歌わせたりします。
それは、1980年代くらいまでの伝記映画のようなストーリーに
2000年代のミュージカル映画のような音楽の使い方をしている事になります。
クイーンの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディー』の方が、
エルトンに比べると時系列に沿っていて、
原曲のテイストは崩さないようにしているので、
けして世間で言う二番煎じの映画ではないんですよね。
エルトンの映画は、結局施設を離れて、音楽活動に戻って
エンドロールでは現在のエルトンについて紹介される希望ある
終わり方をしていて、ジャン&ディーンなどの伝記映画のようでした。
その意味では『ボヘミアン・ラプソディー』は『ラ・バンバ』のように
主人公の死をラストシーンとする物語であり、ファンタジーな部分もありつつ
ペプシコーラも含めてかなりリアリズムにこだわっていますし
最後のライブエイドは、もはや物語ではない感覚で見てしまいます。
なかかなこのアプローチの違いは面白いんですよね。
昔はアルバムで多くのアーティイストがカバーするトリビュートアルバム
というリスヘクトの手段がありましたが、これからは
伝記映画という表現手段でトリビュートされるのかもしれませんね。
今や伝記映画といえば『ボヘミアン・ラプソディー』と言われるくらい
去年は一大ブームになったのですが、意外と見ていない人まで乗っかったり、
メディアで語られるものだけで、公平な目では見られないんですよね。
だから多分『ロケットマン』が二番煎じとか言われるのは
『ボヘミアンラプソディー』ほどメディアで扱われていないので
見ないうちから見劣りしたような気になっているんですよね。
しかし、しかし、エルトンがクイーンの二番煎じなんて大間違い。
クイーンの前にもあったじゃないですか!
ザ・フォーシーズンズの伝記映画『ジャージー・ボーイズ』。
これぞ、2010年代の「伝記+ミュージカル」のひな型ですよ。
それがすっかり『ボヘミアンラプソディー』から始まったようになってるのだ。
この人気の差は、ファンの熱量によるんですよね。
エルヴィスゃビートルズ、それにクイーンを支持する人のマニアックさ、
スターウォーズの試写会でダースベイダーの姿で来るような、
コアなファン層が支えているからで、残念ながらエルトン・ジョンは
名曲が多いのですが、彼の姿になりたいという憧れのような
ロックアイコン的なところは弱いんですよね。
ましてやフォー・シーズンズは。顔の印象もない(笑)。
僕はこの三作品の中で一番『ジャージー・ボーイズ』が好きでした。
ブリティッシュロックとアメリカンポップスの違いもあって
例えばショービジネスの事を、「作品の想いを超えた行き過ぎた演出」と
マイナスに捉えるか、「人々を熱狂させる楽しいもの」と成功の代名詞として
明るい受け止め方をするのかは、お国柄もありますが、
そういうところより、映画の演出がすごかったんですよ。
『ジャージー・ボーイズ』は、映画ではタブーのカメラ目線を
効果的に使っています。物語の最中に登場人物の一人が急にカメラ目線になって
スクリーンの向こう側にいる僕等に話しかけるんですよ。
つまり、登場人物の誰かが代わる代わるナレーションをしているんですよ。
それ自体が刺激的だった。それからラストシーン。
ストリートを登場人物すべてがパレードしながら、ダンスを踊りながら歌う、
まさにミュージカルのフィナーレのような時間があるんですよ。
登場人物が時間や空間をすべて無視して、同一人物の若いころと
年を取ったころの人が並んだり、会う事のない人が並んだりして。
それと最後の最後に、ローアングルから全体を移すのも刺激的だった。
映画の物語の中という事をキープさせるのが常識なのですが
天井からのライトが、ライトですよ~というくらいの照らし方をしていて
物語の場面ではなく、撮影所感をわざと出しているんですよね。
こういうリスキーな事を逆手に取っている攻めの姿勢が大好きでした。
それと曲しか届かない彼らのステージでのパフォーマンスも素晴らしかったです。
さてさて、ベムカメの最後のステージですが、
アロハも鮮やかになり、カメちゃんはウクレレを抱えて道場。
梅雨でもないのに“雨にぬれても”、夏でもないのにハワイの2曲と
季節外れ間をあえて強調しています。
そして楽しい、楽しい“ザット・イズ・ロックンロール”。
毎回、この曲はやるかな~って期待しながらセットリスト待ってます。
【3rd ステージ】
♪雨にぬれても ~Raindrops Keep Fallin' on My Head~
/B・J・トーマス
♪踊りに行こうよ ~At The Hop~
/フラッシュ・キャデラック&ザ・コンティネンタル・キッズ
♪ザット・イズ・ロックンロール/ザ・コースターズ
♪ルイジアナ・ママ/ジーン・ピットニー
♪ブルー・ハワイ/エルヴィス・プレスリー
♪ハワイアン・ウェディング・ソング/エルヴィス・プレスリー
♪オー・プリティ・ウーマン/ロイ・オービソン
♪アイ・ニード・ユア・ラブ・トゥナイト/エルヴィス・プレスリー
♪火の玉ロック ~Great Balls of Fire~/ジェリー・リー・ルイス
♪レッツ・ツイスト・アゲイン/チャビー・チェッカー
【アンコール】
♪ブルー・スエード・シューズ/エルヴィス・プレスリー
♪ハウンド・ドッグ/エルヴィス・プレスリー
益美さんがお休みなので、今夜はアンディーさんがキーボード。
火の玉ロックをアンディーさんが歌いました。
ベムカメも残すところあと一回。
次は12月4日(水)。次回の第二部はゲストの中村詠子さん。
さて、予告編ではありませんが、早くもクリスマスの曲でお別れです。
僕がエルトンジョンで最も好きな曲です。
ベスト盤にも入りませんし、今回の映画にも入る事はなかったのですが
映画にはピッタリの曲だと思うんですけどね。
この曲は邦題が「ロックンロールで大騒ぎ」といいます。
クリスマスソングなのに「クリスマス」という言葉をカットする大胆さ!
Elton John “ロックンロールで大騒ぎ~Step Into Christmas~”