♪洋楽の邦題はやりたい放題♪
子供の頃、外国人が歌っている曲に日本語のタイトルが付いているのが不思議だったんですよ。
当時は何も知らなかったから、歌い手さんが全部曲を決定していると思っていたんですよ。つまり、作詞、作曲、編曲。作詞の内容だって、実話で本人の気持ちで歌ってたと思っていました。実話なら、西城秀樹やシブがき隊は身が持たなくなるけどね(笑)。
学校の校区内しか世界が広がらない少年には、当然ながら「悲しき街角」というタイトルはデル・シャノンが考えたと思っておりました。彼は日本語がしゃべれるのかって。歌手になるためには、何ヶ国語も喋られなければならないかもしれないと、僕の想像力は間違った方向を暴走しながらブレーキが掛かりませんでした。
特に子供時分は意味の分からないカタカナのタイトルより「悲しき街角」とか「素敵な16才」などイメージを容易に膨らますことの出来る日本語タイトルに親しみがありました。
それだけに日本語タイトルというものが、作家や歌手の手に掛からずに、あるいは当人達にはそれすらも知らされずに、アカの他人である日本のレコード会社の人達が勝手に作っていた事を知ってしまった時は、大切な人に裏切られた様なショックを受けてしまいました(ただの独り相撲じゃないかよ!)。しかしその事で、以降は日本語タイトルを付ける人のネーミングセンスに興味が傾き始めました。
そもそもタイトルの果たす役割とは「作者が意図する曲のイメージを言葉によって簡潔に伝えるもの」です。
かつてクラッシックの時代には“誰それの作品の何番の第何楽章”というインデックス的なタイトルばかりでした。しかしこれだけだと味気ないし、詞のない音楽であればなおさら作り手と聞き手の間にイメージの相違まで生じてくる。そこである者は作品に「運命」と名付け、ある者は「四季」と名付ける事になるわけです。
しかし音楽の影響が世界に広がる現代でもクラッシックと同じ事が言えます。例えばドイツ語を知らない国ではどんなタイトルが付こうとも、そのままでは意味が伝わる事がないからです。実質インストゥルメンタルと同じ。特に近年では「音楽を買う」時代。分かりにくいものを売り手は何とか分かりやすく加工して、購買意欲に繋げなければならないです。そうすると一過性のトレンドがどうしても絡んでくるし、「歌は世につれる」と言われていますが、日本語タイトルだけとっても、また然りです。
♪♪♪♪♪♪♪
♪♪♪♪♪♪♪
♪♪♪♪♪♪♪
日本語タイトルには以下の表のように、いくつかの法則に分類できます。ただし例として挙げたものの中には複数の要素が混合している場合があるのでご了承ください。
【洋楽タイトルの邦題パターン分類表(崩れ順)】
☆テーマ系
映画やドラマなどのタイトルと同名の主題歌だったため、区別するためにつけられたもの
♪マイケル・ジャクソン“Ben”→「ベンのテーマ」
♪リマール“Never Ending Story” →「ネバーエンディングストーリーのテーマ」
☆冠系
洋楽タイトルのまま(あるいは直訳した言葉の)頭に
意味もなく日本語を付け加えているもの
「恋は~」「悲しき~」「涙の~」「あの娘は~」「渚の~」
時には畑中葉子のように後ろから前から付け加えられるものもある
♪マイケル・ジャクソン“Beat It”→「今夜はビート・イット」
♪サイモンとガーファンクル“Cecilia”→「いとしのセシリア」
♪ニール・セダカ“One Way Ticket”→「恋の片道切符」
♪ベイ・シティ・ローラーズ“Dedication”→「青春に捧げるメロディー」
☆直訳系
英語タイトルをそのまま訳したもの
♪ビートルズ“Nowegian Wood”→「ノルウェーの森」
♪パット・ブーン“Love Letter In The Sand”→「砂に書いたラブレター」
♪CSN&Y“Suite : Judy Blue Eyes”→「組曲:青い眼のジュディ」
☆意訳系
原題とはニュアンスが違うがイメージを大きく損なわないように噛み砕いているもの
♪ビリー・ジョエル“Tell Her About It”→「あの娘にアタック」
♪ドーン“Tie A Yellow Ribon Round The Ole Oak Tree”
→「幸せの黄色いリボン」
♪エルヴィス・プレスリー“Any Way You Want Me(That's How I Will Be)”
→「どっちみち俺のもの」
☆引用系
慣用句など既存のポピュラーな日本語を当てはめたもの
♪ベンチャーズ“Walk Don't Run”→「急がば回れ」
♪ビリージョエル“Only A Good Die Young”→「若死にするのは善人だけ」
☆印象系
タイトルの言葉より、歌に登場する別の言葉が印象的だったので優先したもの
♪トロイ・ドナヒュー“Live Young”→「恋のパームスプリング」
♪ビリー・ジョエル“This Night”→「今宵はフォーエバー」
☆まとめ系
詞を理解しないとタイトルの意図する事がわからなかったりするので
強引に結論づけたもの
上記「意訳系」との違いは、原題のなごりが全く失われている事
♪ヘレン・シャピロ“You Don't Know”→何を知らないのかタイトルでは分からない
→詞で「あなたは私の気持ちを知らない」という事がわかる
→「悲しき片思い」
♪ビートルズ“You Are Going To Lose That Girl”→君は彼女を失うだろうと忠告
→「恋のアドバイス」
☆シリーズ系
一曲ヒットが出た人に対して以降のシングルでも同じ人である事を印象付けるため
前作に似たタイトルをつけたもの
言うまでもなく2曲目以降は前作と関連もなければ、原題との関係もない
♪エルビス・プレスリー“ラスベガス万歳(Viva Las-Vegas)”に続く、
“フロリダ万歳”原題は“Girl Happy”←この原題も軽すぎるけど…
♪デル・シャノンの「悲しき街角」に続く「花咲く街角」、
そして「さらば街角」、さらに「さすらいの街角」
☆名刺系
かつて小林旭の「アキラでツイスト」「アキラのダンチョネ節」の様に
歌い手の名前を盛り込む場合。曲というより人で売るという感じ。
本業が歌手でない場合、あるいはカバー曲の場合が多い。
ただし有名であることが絶対条件。
♪ギルバート・オサリヴァン“Christmas Song”
→「オサリヴァンと愛のクリスマス」
♪ビリー・アイドル“Lebel Yell”→「反逆のアイドル」
♪ベイ・シティー・ローラーズ“Shang-A-Lang”
→「ベイ・シティー・ローラーズのテーマ」
♪ノーランズ“I'm In The Mood For Dancing”→「ダンシング・シスター」
(総勢5人姉妹のグループだから)
☆ダジャレ系
英語の発音をそのまま日本語に活用したもの
♪エルヴィス・ブレスリー“Don't”→「どんと、まずいぜ」
♪トム・ジョーンズ“If I Only Knew”→「恋はメキメキ」
詞の中にある「Make You Make You…」から来ている
☆異次元系
英語タイトルの意味を完全に無視したもの
♪ビートルズ“A Hard Day's Night”
→「ビートルズがやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!」
♪クイーン“Keep Yourself Alive”→「炎のロックンロール」
♪ビリー・ジョエル“You May Be Right”→「ガラスのニューヨーク」
♪おまけ:坂本九「上を向いて歩こう」→“Sukiyaki(すきやき)”←逆輸入
最初に邦題は世につれるといいましたが、洋楽の邦題には歴史があります。
例えばビーチボーイズとかわかりやすいです。
これは60年代に於けるビーチボーイズのオリジナルアルバム(リリース順)で、収録曲に日本語タイトルが付けられている曲数の統計です。ご覧になる通り、明らかに違いがあることがわかります。
アルバムタイトル 曲数 占有率
Surfin'Safari 12曲中2曲 16%
Surfin'U.S.A. 12曲中0曲 0%
Surfer Girl 12曲中3曲 25%
Little Deuce Coupe 12曲中4曲 33%
Shut Down vol.2 12曲中3曲 25%
All Summer Long 12曲中4曲 33%
Beach Boys Today 12曲中4曲 33%
Summer Days 12曲中4曲 33%
Pet Sounds 13曲中7曲 53% ←突出している
Smiley Smile 11曲中1曲 9%
Wild Honey 11曲中4曲 36%
Friends 12曲中2曲 16%
20/20 12曲中2曲 16%
初期のビーチボーイズのタイトルは日本語のものが特別多いと言うわけではありませんでした。なぜなら使われている言葉がとても分かりやすい「サーフ」とか「サマー」とか「ガール」ばかりで、日本語に訳さなくても「シリーズ系」になっていたからです。ビーチボーイズはグループ名からして、イメージを伝えることに関して頭を痛めなくてよい、非常にありがたいグループだったと思います。
しかしひとたびイメージを変える時が来ると、それは大変なことになります。もう夏物はやらないと言った『ペット・サウンズ』以降はむしろこのグループ名が邪魔にさえなってしまうんですよ。本国アメリカでも戸惑いを見せていた程のアルバムを、遠い異国で理解してもらう事は非常に難しい。そこで何とかリスナーのために噛み砕いて伝える必要が出てきたために邦題で出来るだけ補ったのではないでしょうか。
ところが今度はビートルズの影響でポピュラー音楽界は芸術性を増してきたため、難解なものはそのままで充分歓迎される時代が来てしまい、日本語タイトルもやたら付けられる事もなくなりました。『リボルバー』や『サージェント・ペパーズ~』以降はどんなに長くて言いにくくても、英語タイトルのままカタカナ表記されるものがほとんどでした。そのままのニュアンスで伝えようという風潮。これはリスナーの成長でもあります。
そうなると今度は“駄目な僕”とか“素敵じゃないか”邦題が付いてるビーチボーイズがダサく響くんですよ。
しかしさらにビーチボーイズが忘れ去られたその後はもうひと革命起こって、ハードロック/プログレッシブ・ロックの時代が到来します。
原曲でも余りにも難解極まりないため、ピンクフロイドの『原子心母(Atmic Heart Mother)』とか、ユーライアヒープもの『対自核(Look At Yourself)』とか、もう一度邦題が必要とされる時代がやってきます。レッド・ツェッペリンでも難解ではないのに“天国の階段”とかありましたしね。
そう考えるとその過渡期に迷走したビーチボーイズの『ペットサウンズ』は、早すぎた悲劇のアルバムとも言えるんですよ。
さて、平成(90年代)になってから洋楽の日本語タイトルが激減しました。それはなぜかというと、バンドブームの頃から邦楽曲の多くがアルファベット表記するものが増えたからです。アーティスト名もそう。企業の名前もそうですよね。我々日本人の英語力は昔も今も変わっていませんが、アルファベットに対する抵抗が少なくなったことと、トレンドとして見栄えがいいと感じるようになったからなんでしょうね。僕には少し淋しい気がしますが、でも、今でも映画のタイトルの多くは邦題ですので、これと同じ楽しみ方が出来ると思いますよ。
僕はシャネルズ(ラッツ&スター)の熱狂的なファンなのですが、彼らはこのオールディーズのブランドをしっかりと生かしているんですよ。1stアルバム以外シャネルズ時代の楽曲には英語タイトルがついているんですよ。“Twilight ~街角トワイライト~”、“Sweet Cherry ~涙のスウィート・チェリー~”とか、“Slender Girl ~憧れのスレンダーガール~”…みたいに。つまり彼らは邦楽でありながら、さもアメリカのドゥーワップグループかのように、原題があって日本語タイトルをつけられたっていう状況を逆算する形で作っていたんですよね。
では、余談になりますが「僕の好きな日本語タイトルBEST10」をご紹介しておきます。やっぱキャッチコピー的なものが好きだ。
1位 ビリー・ジョエル
“Sometimes A Fantasy” → 「真夜中のラブコール」
2位 ボーイズ・タウン・ギャング
“Can't Take My Eyes Off You” → 「君の瞳に恋してる」
3位 ザ・ビートルズ
“I Want To Hold Your Hand” → 「抱きしめたい」
4位 シカゴ
“Hard To Say I'm Sorry” → 「素直になれなくて」
5位 フライイング・マシーン
“Smile A Little Smile For Me” → 「笑ってローズマリーちゃん」
6位 バリーマン
“Who Put The Bomp” → 「シビれさせたのは誰?」
7位 ベイ・シティー・ローラーズ
“I Only Want To Be With You” → 「二人だけのデート」
8位 ポール・マッカートニー
“Listen To What The Man Said” → 「あの娘におせっかい」
9位 エルビス・プレスリー
“Wear My Ring Around Your Neck” → 「思い出の指環」
10位 ノーランズ
“Gotta Pull Myself Together” → 「恋のハッピー・デート」
次点 ジャン&ディーン
“Ride The Wild Surf” → 「太陽の渚No.1」
今日のお別れは次点になってしまった。ジャン&ディーンの曲で。ジャン&ディーンで一番好きな曲は“POPSICLE(ポプシクル)”、そして2番目に好きなのがこの“Ride The Wild Surf”であります。サーフィン・ミュージックでありながら、ストリングスアレンジが妙に切ないし、エンディングでは当時アメリカを席巻しているビートルズの“抱き締めたい”の2拍3連をそのまま頂いています。洋楽の邦題も、世の中のワイルドな波に乗ってるぜぃ!
Jan & Dean “Ride The Wild Surf”
当時は何も知らなかったから、歌い手さんが全部曲を決定していると思っていたんですよ。つまり、作詞、作曲、編曲。作詞の内容だって、実話で本人の気持ちで歌ってたと思っていました。実話なら、西城秀樹やシブがき隊は身が持たなくなるけどね(笑)。
学校の校区内しか世界が広がらない少年には、当然ながら「悲しき街角」というタイトルはデル・シャノンが考えたと思っておりました。彼は日本語がしゃべれるのかって。歌手になるためには、何ヶ国語も喋られなければならないかもしれないと、僕の想像力は間違った方向を暴走しながらブレーキが掛かりませんでした。
特に子供時分は意味の分からないカタカナのタイトルより「悲しき街角」とか「素敵な16才」などイメージを容易に膨らますことの出来る日本語タイトルに親しみがありました。
それだけに日本語タイトルというものが、作家や歌手の手に掛からずに、あるいは当人達にはそれすらも知らされずに、アカの他人である日本のレコード会社の人達が勝手に作っていた事を知ってしまった時は、大切な人に裏切られた様なショックを受けてしまいました(ただの独り相撲じゃないかよ!)。しかしその事で、以降は日本語タイトルを付ける人のネーミングセンスに興味が傾き始めました。
そもそもタイトルの果たす役割とは「作者が意図する曲のイメージを言葉によって簡潔に伝えるもの」です。
かつてクラッシックの時代には“誰それの作品の何番の第何楽章”というインデックス的なタイトルばかりでした。しかしこれだけだと味気ないし、詞のない音楽であればなおさら作り手と聞き手の間にイメージの相違まで生じてくる。そこである者は作品に「運命」と名付け、ある者は「四季」と名付ける事になるわけです。
しかし音楽の影響が世界に広がる現代でもクラッシックと同じ事が言えます。例えばドイツ語を知らない国ではどんなタイトルが付こうとも、そのままでは意味が伝わる事がないからです。実質インストゥルメンタルと同じ。特に近年では「音楽を買う」時代。分かりにくいものを売り手は何とか分かりやすく加工して、購買意欲に繋げなければならないです。そうすると一過性のトレンドがどうしても絡んでくるし、「歌は世につれる」と言われていますが、日本語タイトルだけとっても、また然りです。
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日本語タイトルには以下の表のように、いくつかの法則に分類できます。ただし例として挙げたものの中には複数の要素が混合している場合があるのでご了承ください。
【洋楽タイトルの邦題パターン分類表(崩れ順)】
☆テーマ系
映画やドラマなどのタイトルと同名の主題歌だったため、区別するためにつけられたもの
♪マイケル・ジャクソン“Ben”→「ベンのテーマ」
♪リマール“Never Ending Story” →「ネバーエンディングストーリーのテーマ」
☆冠系
洋楽タイトルのまま(あるいは直訳した言葉の)頭に
意味もなく日本語を付け加えているもの
「恋は~」「悲しき~」「涙の~」「あの娘は~」「渚の~」
時には畑中葉子のように後ろから前から付け加えられるものもある
♪マイケル・ジャクソン“Beat It”→「今夜はビート・イット」
♪サイモンとガーファンクル“Cecilia”→「いとしのセシリア」
♪ニール・セダカ“One Way Ticket”→「恋の片道切符」
♪ベイ・シティ・ローラーズ“Dedication”→「青春に捧げるメロディー」
☆直訳系
英語タイトルをそのまま訳したもの
♪ビートルズ“Nowegian Wood”→「ノルウェーの森」
♪パット・ブーン“Love Letter In The Sand”→「砂に書いたラブレター」
♪CSN&Y“Suite : Judy Blue Eyes”→「組曲:青い眼のジュディ」
☆意訳系
原題とはニュアンスが違うがイメージを大きく損なわないように噛み砕いているもの
♪ビリー・ジョエル“Tell Her About It”→「あの娘にアタック」
♪ドーン“Tie A Yellow Ribon Round The Ole Oak Tree”
→「幸せの黄色いリボン」
♪エルヴィス・プレスリー“Any Way You Want Me(That's How I Will Be)”
→「どっちみち俺のもの」
☆引用系
慣用句など既存のポピュラーな日本語を当てはめたもの
♪ベンチャーズ“Walk Don't Run”→「急がば回れ」
♪ビリージョエル“Only A Good Die Young”→「若死にするのは善人だけ」
☆印象系
タイトルの言葉より、歌に登場する別の言葉が印象的だったので優先したもの
♪トロイ・ドナヒュー“Live Young”→「恋のパームスプリング」
♪ビリー・ジョエル“This Night”→「今宵はフォーエバー」
☆まとめ系
詞を理解しないとタイトルの意図する事がわからなかったりするので
強引に結論づけたもの
上記「意訳系」との違いは、原題のなごりが全く失われている事
♪ヘレン・シャピロ“You Don't Know”→何を知らないのかタイトルでは分からない
→詞で「あなたは私の気持ちを知らない」という事がわかる
→「悲しき片思い」
♪ビートルズ“You Are Going To Lose That Girl”→君は彼女を失うだろうと忠告
→「恋のアドバイス」
☆シリーズ系
一曲ヒットが出た人に対して以降のシングルでも同じ人である事を印象付けるため
前作に似たタイトルをつけたもの
言うまでもなく2曲目以降は前作と関連もなければ、原題との関係もない
♪エルビス・プレスリー“ラスベガス万歳(Viva Las-Vegas)”に続く、
“フロリダ万歳”原題は“Girl Happy”←この原題も軽すぎるけど…
♪デル・シャノンの「悲しき街角」に続く「花咲く街角」、
そして「さらば街角」、さらに「さすらいの街角」
☆名刺系
かつて小林旭の「アキラでツイスト」「アキラのダンチョネ節」の様に
歌い手の名前を盛り込む場合。曲というより人で売るという感じ。
本業が歌手でない場合、あるいはカバー曲の場合が多い。
ただし有名であることが絶対条件。
♪ギルバート・オサリヴァン“Christmas Song”
→「オサリヴァンと愛のクリスマス」
♪ビリー・アイドル“Lebel Yell”→「反逆のアイドル」
♪ベイ・シティー・ローラーズ“Shang-A-Lang”
→「ベイ・シティー・ローラーズのテーマ」
♪ノーランズ“I'm In The Mood For Dancing”→「ダンシング・シスター」
(総勢5人姉妹のグループだから)
☆ダジャレ系
英語の発音をそのまま日本語に活用したもの
♪エルヴィス・ブレスリー“Don't”→「どんと、まずいぜ」
♪トム・ジョーンズ“If I Only Knew”→「恋はメキメキ」
詞の中にある「Make You Make You…」から来ている
☆異次元系
英語タイトルの意味を完全に無視したもの
♪ビートルズ“A Hard Day's Night”
→「ビートルズがやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!」
♪クイーン“Keep Yourself Alive”→「炎のロックンロール」
♪ビリー・ジョエル“You May Be Right”→「ガラスのニューヨーク」
♪おまけ:坂本九「上を向いて歩こう」→“Sukiyaki(すきやき)”←逆輸入
最初に邦題は世につれるといいましたが、洋楽の邦題には歴史があります。
例えばビーチボーイズとかわかりやすいです。
これは60年代に於けるビーチボーイズのオリジナルアルバム(リリース順)で、収録曲に日本語タイトルが付けられている曲数の統計です。ご覧になる通り、明らかに違いがあることがわかります。
アルバムタイトル 曲数 占有率
Surfin'Safari 12曲中2曲 16%
Surfin'U.S.A. 12曲中0曲 0%
Surfer Girl 12曲中3曲 25%
Little Deuce Coupe 12曲中4曲 33%
Shut Down vol.2 12曲中3曲 25%
All Summer Long 12曲中4曲 33%
Beach Boys Today 12曲中4曲 33%
Summer Days 12曲中4曲 33%
Pet Sounds 13曲中7曲 53% ←突出している
Smiley Smile 11曲中1曲 9%
Wild Honey 11曲中4曲 36%
Friends 12曲中2曲 16%
20/20 12曲中2曲 16%
初期のビーチボーイズのタイトルは日本語のものが特別多いと言うわけではありませんでした。なぜなら使われている言葉がとても分かりやすい「サーフ」とか「サマー」とか「ガール」ばかりで、日本語に訳さなくても「シリーズ系」になっていたからです。ビーチボーイズはグループ名からして、イメージを伝えることに関して頭を痛めなくてよい、非常にありがたいグループだったと思います。
しかしひとたびイメージを変える時が来ると、それは大変なことになります。もう夏物はやらないと言った『ペット・サウンズ』以降はむしろこのグループ名が邪魔にさえなってしまうんですよ。本国アメリカでも戸惑いを見せていた程のアルバムを、遠い異国で理解してもらう事は非常に難しい。そこで何とかリスナーのために噛み砕いて伝える必要が出てきたために邦題で出来るだけ補ったのではないでしょうか。
ところが今度はビートルズの影響でポピュラー音楽界は芸術性を増してきたため、難解なものはそのままで充分歓迎される時代が来てしまい、日本語タイトルもやたら付けられる事もなくなりました。『リボルバー』や『サージェント・ペパーズ~』以降はどんなに長くて言いにくくても、英語タイトルのままカタカナ表記されるものがほとんどでした。そのままのニュアンスで伝えようという風潮。これはリスナーの成長でもあります。
そうなると今度は“駄目な僕”とか“素敵じゃないか”邦題が付いてるビーチボーイズがダサく響くんですよ。
しかしさらにビーチボーイズが忘れ去られたその後はもうひと革命起こって、ハードロック/プログレッシブ・ロックの時代が到来します。
原曲でも余りにも難解極まりないため、ピンクフロイドの『原子心母(Atmic Heart Mother)』とか、ユーライアヒープもの『対自核(Look At Yourself)』とか、もう一度邦題が必要とされる時代がやってきます。レッド・ツェッペリンでも難解ではないのに“天国の階段”とかありましたしね。
そう考えるとその過渡期に迷走したビーチボーイズの『ペットサウンズ』は、早すぎた悲劇のアルバムとも言えるんですよ。
さて、平成(90年代)になってから洋楽の日本語タイトルが激減しました。それはなぜかというと、バンドブームの頃から邦楽曲の多くがアルファベット表記するものが増えたからです。アーティスト名もそう。企業の名前もそうですよね。我々日本人の英語力は昔も今も変わっていませんが、アルファベットに対する抵抗が少なくなったことと、トレンドとして見栄えがいいと感じるようになったからなんでしょうね。僕には少し淋しい気がしますが、でも、今でも映画のタイトルの多くは邦題ですので、これと同じ楽しみ方が出来ると思いますよ。
僕はシャネルズ(ラッツ&スター)の熱狂的なファンなのですが、彼らはこのオールディーズのブランドをしっかりと生かしているんですよ。1stアルバム以外シャネルズ時代の楽曲には英語タイトルがついているんですよ。“Twilight ~街角トワイライト~”、“Sweet Cherry ~涙のスウィート・チェリー~”とか、“Slender Girl ~憧れのスレンダーガール~”…みたいに。つまり彼らは邦楽でありながら、さもアメリカのドゥーワップグループかのように、原題があって日本語タイトルをつけられたっていう状況を逆算する形で作っていたんですよね。
では、余談になりますが「僕の好きな日本語タイトルBEST10」をご紹介しておきます。やっぱキャッチコピー的なものが好きだ。
1位 ビリー・ジョエル
“Sometimes A Fantasy” → 「真夜中のラブコール」
2位 ボーイズ・タウン・ギャング
“Can't Take My Eyes Off You” → 「君の瞳に恋してる」
3位 ザ・ビートルズ
“I Want To Hold Your Hand” → 「抱きしめたい」
4位 シカゴ
“Hard To Say I'm Sorry” → 「素直になれなくて」
5位 フライイング・マシーン
“Smile A Little Smile For Me” → 「笑ってローズマリーちゃん」
6位 バリーマン
“Who Put The Bomp” → 「シビれさせたのは誰?」
7位 ベイ・シティー・ローラーズ
“I Only Want To Be With You” → 「二人だけのデート」
8位 ポール・マッカートニー
“Listen To What The Man Said” → 「あの娘におせっかい」
9位 エルビス・プレスリー
“Wear My Ring Around Your Neck” → 「思い出の指環」
10位 ノーランズ
“Gotta Pull Myself Together” → 「恋のハッピー・デート」
次点 ジャン&ディーン
“Ride The Wild Surf” → 「太陽の渚No.1」
今日のお別れは次点になってしまった。ジャン&ディーンの曲で。ジャン&ディーンで一番好きな曲は“POPSICLE(ポプシクル)”、そして2番目に好きなのがこの“Ride The Wild Surf”であります。サーフィン・ミュージックでありながら、ストリングスアレンジが妙に切ないし、エンディングでは当時アメリカを席巻しているビートルズの“抱き締めたい”の2拍3連をそのまま頂いています。洋楽の邦題も、世の中のワイルドな波に乗ってるぜぃ!
Jan & Dean “Ride The Wild Surf”