始まりの場所 長谷寺への想い(1)【その仏教建築の美しさについて】 | MarlboroTigerの【Reload the 明治維新】

始まりの場所 長谷寺への想い(1)【その仏教建築の美しさについて】

 

大和を代表する名刹、豊山長谷寺です。我々観音信仰者にとっては、聖地中の聖地と言って過言では無いでしょう。観音巡礼のみならず、日本における巡礼が最初に誕生した場所でもあります。この美しい寺院の魅力は、一言では言い表せませんが、少しづつ語って行きたいと思います。

 

車で行くのも良し。近鉄電車でのんびり行くのも良し。その圧倒的な美しさに酔いしれ、日がな一日...境内でボーッとするも良し。これ程参拝者を楽しませる仕掛けに満ちた寺院は、ちょっと他に見当たりません。江戸初期における仏教芸術の最高傑作と言えるでしょう。宗教施設の枠を超え、当時のエンターテイメントの極みがこの寺院には集約されています。

 

 

賑やかな門前町を抜けると、我々を出迎えてくれるのがこの巨大な仁王門です。明治期に再建された物ですが、先ずはその豪華さに圧倒されます。この先の驚きの空間を包み隠す様に、先ずはこのゲートが俗界との境界線に鎮座されているのです。

 

 

そして長谷寺名物...登廊へと続きます。二度の90°ターンでジグザクに登らされる訳ですが、これは設計者たる中井大和守正清の美に対する執念と、参拝者を打ちのめしてやろうと言うクリエイターとしての冒険心の結晶と言って良いでしょう。一直線に吊るされた灯篭の連なりは美しさの極み。これが観音ワンダーランドへの導線となります。圧倒的なキャリアを持つ大和守の、最後に手掛けた作品こそ、この長谷寺。伝説の寺院を蘇らせる大工事を任されたことは、宮大工としての集大成となった筈です。

 

 

この時代におけるスーパーゼネコンの代表...と言って良いかと思います。二条城、江戸城、増上寺、日光東照宮、石清水八幡宮本殿、比叡山延暦寺根本中堂、東寺五重の塔、仁和寺五重の塔...皆さんも、どれかはお目にかかった事があるでしょう?あれらを手掛けた怪物のごとき匠が、この人なのです。将軍家光、そしてこの大和守が居なかったなら、現在日本を代表する観光名所は存在していないと言っても良い。インバウンドの恩恵を受ける現代の日本人は、感謝せねばなりませんね。

 

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長谷寺の登廊は山門からそのまま直進すれば本堂にショートカットで登れます。屋根の無い剥き出しの石段も見えてはいるのです。ですが、屋根瓦の付いた登廊はそのまま真っ直ぐに進ませず、右に90°曲がってしまいます。屋根付きそして灯篭付きの美しい石段が続いている訳ですから、当然参拝者は登廊に沿って右に曲がります。そして傾斜が一気に厳しくなる。緩やかな階段から、やや手強い階段へ...そして二度目のターンで一気にしんどい階段へとシフトチェンジして行きます。一説には、人生を表しているとも言われます。若い内は苦もなく歩める道が、歳を取ると段々きつくなって来る。観音様の道へは決して楽では無いのだよと...暗に示しているのかも知れませんね。

 

399段あります。死を超えない様に、400の一歩手前で登り切る(笑)。

 

ですが、他の寺院の400段に比べれば遥かに楽に感じる筈です。それは美しい景観に目を奪われながら登るからかも知れませんが、最初の下廊が非常に楽な階段になっているからでしょう。本当に優しい階段(笑)。

 

登廊を登り切ったポイントが、鐘楼の場所になります。これもお洒落な演出ですね。時間によっては登り切った瞬間に頭上で鐘がなる訳です。そして本堂の横の位置に出る。何故横から入る様にしているのか...それは巨大な御本尊・十一面観音との対面をドラマチックに演出する為です。ここに至るまで、本尊は秘したまま死角にいらっしゃる訳です。参拝者に拝ませる事なく...美しい庭を鑑賞させておいて...

 

いきなりこの日本最大の木造観音像に出くわす訳です!

 

 

西国三十三所の御本尊は秘仏となっている場合が多く、常時ご開帳されている観音様は数える程しかありません。その常時開帳御本尊の内の一つが、この長谷寺の十一面観音立像になります。度肝を抜かれる大迫力の巨大仏ですが、同時に魂を抜かれる程美しい。

 

何度も火災に見舞われた長谷寺は、その度に御本尊も燃えてしまうのですが、不思議な事に頭部だけはいつも無事だったのだそうです。胎内にはそのオリジナルが納められています。この観音様は八代目。室町時代に再建された物です。以来、人々がおすがりし...撫でられ続けた足の部分は黒光りしております。

 

なんと現代でも春と秋の特別開帳時には、手で触れることが出来るのですよ!

 

錫杖を持った姿は、本来はお地蔵さんの特徴ですね。それを観音さんが持っていらっしゃる。これは長谷寺式観音として有名なスタイルです。下から見上げるも良し...舞台に戻って眺めるも良し...。お好みの角度からゆったり拝めます。そして本堂は国宝!この御本尊にして、この本堂ありと言う...圧倒的な豪華さです。本尊が大きい分、当然ながらそれを覆うお堂も巨大になるわけで...お堂を見るだけでも価値があります。豪壮な懸造の舞台は、真にザ・観音霊場と言うに相応しい。観音様は崖の上に居られますからね。京都の清水寺はその典型的な作りですが、この長谷寺も負けてはいません。

 

太古の昔から貴族が通い詰めた霊場。そのパワーを是非とも感じて貰いたいですね。

 

舞台からの眺めは、絶景の一言。観音様との出会いでビックリし、舞台からの眺めで二度ビックリ(笑)!真言密教の僧侶達が吹きならす法螺貝の音に魂を清められる...。江戸時代の人達も中井大和守の仕掛けにまんまとハマり...度肝を抜かれた筈です。そう、この寺院は江戸時代においては娯楽施設...テーマパークであったとも言えるのです。究極の美の殿堂!参拝した者の心に刺さる...素晴らしい思い出を焼き付けてくれた...そんな場所だったのです。

 

 

観音様は、この舞台から大和山河を見下ろしておられます。

 

ほんと、今も昔も...絶景ですよ(笑)。

 

近くを流れる初瀬川は可愛らしい川ですが、とてもミステリアス。三輪山より東に向かって谷が続いている訳ですが、初瀬川はここから三輪山方面に流れ、やがて大和川となって大阪湾へと至ります。全国の長谷川さんの名前の由来となる川ですから、長谷川と言う姓をお持ちの方は、一度は長谷寺に参拝されては如何でしょうか(笑)。ルーツですからね。

 

東へ向かえば室生寺もあります。紀伊半島中部を貫き、その先には伊勢神宮があります。伝説によると、天照大神が最初に降臨した場所が、この長谷寺の地だと言います。

 

 

十一面観音の脇侍、雨宝童子立像は天照大神を表しているとも言います。桜井が元伊勢と呼ばれる所以ですね。

 

とにかく、この長谷寺...その見せ方の素晴らしさは突出しています。先ずはその魅力をエンターテイメント的側面からお伝えしました。中井大和守の作り上げた、美の殿堂。その計算し尽くされた焦らしの導線...皆さんも堪能してみて下さい。

 

次は西国三十三所の札所としての魅力について語りたいと思います。