今週もラジオ「KENROCKS NITE ver2」を愛聴していただいて感謝します。木曜日の深夜1時32分からというほぼ草木も眠る、いわゆる丑三つ時に起きていて(あるいは録音されて)聴いていただいてくれるなんて、やる側としてもこれ以上に嬉しいことはありませんからね。


 番組にスポンサーがついていないので、ギャラは出ないんですが、その分、好きなことがやり放題出来る、という強みもあります。世の中、金だけではコトが起こらないことは多々あります。自分の気持ちもそのひとつ、ですね。


 さて、そんな番組に少しづつですが「常連」さんも出来て、お便りのメールも増えて来ています。みなさん、ありがとう!応援、心から感謝します。で、今週の自分の枠、前半の30分くらいですが、テーマは「60年代ルーツ探求シリーズ」のひとつから今回は、「60年代のエレキインストに聴く、エレキ・ブーム」みたいな感じで、ベンチャーズから北欧サウンズのスプートニクスまでいろいろかけました。でも、当時を知らないリスナーの方々には???ですよね。しかし、今から半世紀近く前、1960年代の初め頃にアメリカからエレキ・ギターによるボーカルのないインストゥルメンタルと呼ばれるつまり器楽演奏の音楽が入って来て、それがあっという間に世界中の若者たちを虜にして熱狂的なブームを生んだという事実は明らかにしなければなりません。決して、一部のマニアの楽しみなんかではなかったのです。ま、音楽に関心のない人は別ですけど。


 そのエレキ・ブームが日本の音楽界に与えた影響の大きさは、その後のどんなものより大きく深いものだと言えます。エレキがなければエレキ・バンドは生まれませんから、そういうビート・バンドのブームも生まれないし、日本で言うならグループサウンズもあり得ませんね。また、歌手のバックのオーケストラにもギタリストはいましたから、ま、確かにそういう楽団のギタリストさんはおおかたがジャズやクラシックを経てプロになったようですが、エレキ・ブームはそういう楽団のサウンドにもおおいに影響を与えました。だから、あの時代の歌謡曲などにもそういう影響が色濃く残っているんです。演歌でもなく和製ポップスというのでもない、日本独自のエレキ・サウンドがあちこちで鳴り響いていました。

 その象徴的なものが、コロムビア・レコードの専属だったソングライターの吉田正さんの手で作られた曲の数々、橋幸夫さんがたいはんを歌ってヒットしました。独自の和の音階にエレキのビートをまるで三味線のようにはめ込んだり、ある時はその強いトーンを全面に押し出して歌謡曲の枠を破るような曲作りをしたり、そのユニークな手法は今も「リズム歌謡」などと呼ばれて生き続けています。


 もちろん、この他にもザ・ピーナッツ、坂本九、クレイジーキャッツ、エミー・ジャクソンなど多種多様なエレキサウンドを活かしたサウンドで人気者になった歌手は多くいました。単なる流行りではなく、まさにエレキ・サウンドは「革命」だったんです。
では、その一番のサンプルをご覧下さい。橋幸夫さんのヒット曲で、後にはアメリカのエレキ・バンド、THE ASTRONAUTSがカバーもした「チェッ チェッ チェッ」。この何ともいいようのないある種の「いなたさ」こそが昭和の歌謡史に燦然と輝く「リズム歌謡」の粋なのです。

チェッ チェッ チェッ/橋幸夫 ’64 作詞 佐伯孝夫 曲 吉田正