平成大家族/中島 京子 | Bon livre –いつか最良の一冊と出会う–


平成大家族 (集英社文庫)


※ネタバレふくみます。

カッコウの卵は誰のもの』を読んだときに
「緋田」って珍しい苗字だなぁと思っていたが、
なんとこの小説も「緋田」さんちが舞台だった。

本を読んでいるとこういう偶然てあるよね。

都営新宿線の菊川あたりを歩いているとき、
「長谷川平蔵の里 鬼平通り」というのぼりが立っていて、
平蔵の首』を読んだ直後だったからびっくりした。
ここがあの小説の舞台か…なんてとても想像できない景観だけど。

まぁそんなわけで、緋田龍太郎氏を大黒柱とするこの一家。

長女の夫の会社は倒産するわ、次女は離婚して出戻ってくるわ、
長男は相変わらずの引きこもりだわ。
平穏な老後の生活を乱された龍太郎氏はストレスを溜めている。

長女夫妻に資金援助するし、長男を追い出しはしないし、
厳しすぎる父親ではないけれど、家がにぎやかになったことを喜んではいない。

春子さんの友人じゃないけどさ、平和なほうだよねぇ。

長女の旦那にも次女にも長男にも生活力があるってだけでだいぶマシ。
成人にもなって、親が見捨てたら路頭に迷って死ぬんじゃないか、
みたいな性格や状況の人間だって多い世の中でさー。
自分が見放しても彼らは生きていけるから、イラつく余裕ができるってもんよ。

そう、次々と舞い込む問題を龍太郎氏がバッサバッサ解決していくわけではなく、
家族が勝手に騒いでいつの間にか落ち着きどころを見つけてて、
当主は完全に置いてけぼりなのである。まったく影が薄い。

うちの父も、両家の顔合わせのとき、彼が挨拶にきた日を振り返って
「9月まで付き合ってることすら知らなくてね、
 先月結婚の挨拶に来たのかと思ったらいきなり子供ができたっていうから
 驚いて声もでなくてね、順序が逆じゃなかったらおめでとうと言えたのに」
っていうくだりを立て続けに3回話した。

私が彼のお父さんだったら「だからゴメンっつってんだろ!」ってキレるわ。

ラスト、親友の川島先生が、この一家の顛末を小説にしてみてはどうか、と
龍太郎に進言するのですが、そこからのオチが痛快でした。