シューベルトが19歳の時に作曲した三つの〝ピアノとバイオリンのためのソナタ〟があります。

当時若きシューベルトが通っていたウィーンの皇室修道院での成績表からもわかるように、優れたバイオリン奏者だったシューベルトは、放課後、学生オケのコンサートマスターとして練習にいそしみ、モーツァルト、ハイドン、けるびーにやベートーヴェン先生の序曲や交響曲を演奏会で発表していたのです。そして家では家族と奏でる弦楽四重奏のヴィオラを担当していました。

19世紀の作曲家で、彼ほど弦楽器の音色や性質を熟知していた作曲家はおらず、彼の作品では弦楽器の旋律はその魅力を余すところなく伝えています。

 

とはいえ、このソナタを作曲していた年にはこれらのバイオリンソナタが世に出ることはなく、そのあとに作曲された4つのバイオリンソナタと、彼の死の三年前の作品である、ファンタジーやロンドほど認知されなかった理由の一つに、彼はモーツァルトやベートーヴェンほどピアニストとしての名声は得ていなかったのでこれらの曲を発表する機会がなかったためであるといえるでしょう。

 

この三つのソナタは、その前の年に書かれたロマン派の要素あふれる弦楽四重奏曲から一転して、古典派のスタイルに逆戻りします。そして、モーツアルトへのオマージュかとも思えるほど、モーツァルトのヴァイオリンソナタに似通っていて、ピアノとヴァイオリンのバランスが同等で、二つの楽器の対話を織りなしています。

 

DDurのソナタの冒頭はバイオリンとピアノのユニゾンから始まりますが、それは モーツァルトのe-MollのピアノソナタKV 304の冒頭のユニゾンをほうふつとさせるし、第二楽章のADurのテーマはモーツァルトの歌曲An Chloe KV 524のテーマと非常に酷似しています。それに対し、AMollの中間部は歌曲王シューベルトの片りんを垣間見ることができます。

最後のロンドの主題もモーツァルトのフィナーレでおなじみの6-8拍子ですが、このアレグロ・ヴィヴァーチェは、和声的サプライズにいたるまで、紛れもなくシューベルトなのです。