2019年にデビューしたJR九州の821系近郊形電車。現在は鹿児島本線の門司港・小倉駅と筑豊本線(福北ゆたか線)の直方駅を結ぶ列車でも活躍しています。折尾駅止まりだった前任の国鉄形415系鋼製車とちょっと比べてみました。

 

 

門司港駅に停車中の821系

 

 

 

821系は415系の後継形式として、当初は25年3月までに約140億円かけて置き換える計画だったようですが、新型コロナウイルス禍などの影響もあり、製造は10編成30両で打ち切られました。

 

それでも415系鋼製車の運用離脱は進められたため九州全体の車両計画に変更が生じ、現在の821系は熊本車両センター(熊クマ)を拠点に、主に豊肥本線の電化区間と福北ゆたか線系統を走っています。

 

北九州地区では、門司港・小倉駅から直方駅までの運用に充当されています。ワンマン運転ですが、福北ゆたか線に直通できなかった415系時代より利便性は向上しました。ただ、821系は1両減の3両編成のため、利用区間にもよりますが、休日には座れなくなった気がします。

 

 

821系の前面部分は、縁取り部分に並んだLEDライトが特徴的です=門司

 

 

821系に書かれた所属表記。北九州で「熊クマ」を見るのは新鮮で、かつての寝台特急「富士」「はやぶさ」を思い出します

 

 

 

821系を眺めると、切妻ながら癖のある「顔」が目立ちます。前面を囲むように配置された大量のLEDライトは過剰に思えますが(現在は点灯しないようです)、大きなヘッドライトは415系の先輩車両である421・423系のデカ目をなんとなく思い出させます。

 

一方で、アルミ合金製の車体はいたってシンプルです。特徴的なのは、大きな1枚ガラスながら天地の幅が狭くなった側窓で、これは開放感の面ではトレンドに逆行するように思います。

 

 

821系の天地幅が狭い側窓。見た目自体はシンプルです=門司港

 

 

鹿児島本線を走る821系。遠くからでも細長い側窓が目を引きます=西小倉—九州工大前

 

 

同区間を走っていた415系鋼製車=2022年

 

 

 

ところが821系の車内に入ると外観からイメージするほどの閉塞感はなく、その華やかな内装は前任の415系と比べると何世代分か進化したように感じます。

 

JR九州の電車でよく見かける木の座席は座面や背もたれが硬くて苦痛で、快適性では正直415系の方が良いと思ってしまいますが、821系のロングシートはクッション性が改善され、体に受けるゴツゴツ感が多少緩和されました。デザイン性と実用性の両立は、本当に難しいものだと実感します。

 

 

821系の車内。閉塞感はなく普通車両とは思えない華やかな印象です。モケットも種類が多く遊び心を感じます

 

 

晩年の415系鋼製車の車内。ロングシート化されモケットも変わりましたが、国鉄時代の雰囲気を色濃く残していました=2022年

 

 

 

北九州市内で所用などの際、821系に乗って静かなモーター音や自動放送、ドアチャイムを聞いていると、なんだか都会の電車に乗っている感覚になります。

 

415系鋼製車が運用離脱して1年余。軽快な電車に揺られながら、門司や門司港に留置された錆びた「白電」の横を通り過ぎると、九州でも「国鉄」が遠くなったことを実感します。

 

821系は計画どおりには増備されませんでしたが、415系の交流区間の後継形式として、長く活躍が続きそうです。

 

 

門司港に留置された415系(右)の横を通り過ぎる821系(左端)=2月

 

 

 

※門司港—折尾間を走っていた415系鋼製車は、以下の記事でも紹介しています