東海道・山陽本線で約半世紀にわたって親しまれた寝台特急「あさかぜ」。けん引機には朝風をシンプルに表現した秀逸なデザインのヘッドマークが掲出されていました。今回は晩年に見られた4種類の個体差を探ってみました。

 

 

EF66 50に取り付けられた晩年の「あさかぜ」のヘッドマーク。長年の風雨に耐えた各個体からは風格が感じられました=2005年

 

 

 

■あさかぜのヘッドマーク

「あさかぜ」は1956(昭和31)年に東京ー博多間でデビュー。58年にブルートレインとなり、全盛期には1日3往復運転されていました。94年に発祥の博多行きが臨時化され、2005年に東京ー下関間を走っていた最後の1往復が姿を消しました。

 

「あさかぜ」のヘッドマークは、白地に銀色の風が4本入り金色の文字で列車名が書かれています。九州で使われたタイプはローマ字が省略されていましたが、基本的なデザインは変わりませんでした。

 

 

【参考】九州で使われたヘッドマーク。お椀型でローマ字表記がありませんでした

 

 

 

■ヘッドマークについて

EF65やEF66ブルートレインに掲出されたヘッドマークは直径66㌢で、鉄やアルミで作られていました。国鉄時代から形、材質、色などに指定があったようですが、実際には制作した機関区や工場、あるいは年代などで微妙に違いがありました。「あさかぜ」も東京機関区のEF65時代と下関運転所のEF66時代で仕上げ方が異なっているように見えます。

 

ヘッドマークは機関車と同じように運用がありました。晩年の「あさかぜ」は毎日下関行きと東京行きがそれぞれ走っていたため、基本的には2枚で運用されていたと思われます。

 

以下、晩年に見られた四つの個体を見ていきます(タイプ1〜4の名称は便宜上のものです)。

 

 

 

■タイプ1風が短い個体

晩年の「あさかぜ」でヘッドマークローテーションに入っていた2枚のうちの1枚。下りの最終列車で使用されました。写真のように下側2本の風が短いのが特徴です。一番下の1本は折れてしまったと思われ、撮影記録を確認すると、遅くとも2001年初めにはこの状態だったようです。

 

この個体は列車廃止後も下関総合車両所に保管され、一般公開の際にはよくEF65PF形に取り付けられています。

 

 

下2本の風が短いタイプ1。長年使用されたのか表面がずいぶん劣化していました=2005年

 

 

 

■タイプ2→バランスが整った個体

晩年にローテーションを形成していたもう一つの個体。タイプ1と比べると全体的にバランスが整っていて、私はこちらが使われる日を好んで撮影に出かけていました。

 

長年にわたる使用で少しずつ錆が目立ち始め、ローマ字の「K」の下や、上の風の右端が茶色になっていました。この個体はラストラン前日に下関車両管理室(当時)で行われた撮影会で、EF66 45に取り付けられたのが最後の使用となりました。私はその後見ていませんが、京都鉄道博物館で展示実績があるようです。

 

 

バランスが整っていたタイプ2。この個体も徐々に錆が目立ち、風の先端が浮き上がっているように見えます。ただ、通常の撮影では気になりませんでした=2005年

 

 

 

タイプ3→状態の良いきれいな個体

この個体は晩年のローテーションには入っていなかったと思いますが、廃止間際に何度か使われていました。ずいぶんきれいだったので予備かイベント用の個体だったのでしょうか…。2003年にあった新山口での撮影会で似たような個体を見かけましたが、詳しい経緯は分かりません。

 

 

前述の2枚に比べると格段にきれいだったタイプ3。走行写真でも違う個体であることが分かります=2005年

 

 

 

■タイプ4→日付入りの個体

「あさかぜ」の上りラストランで使用された、有名な日付入りの個体です。予備の個体に日付を入れたのか、ラストラン用に新たに制作されたのかは分かりません。

 

元はタイプ3だったかも…とも考えましたが、取付金具の形状が異なる(タイプ4は角がない)ため、違うもののようです。日付が入ったこの個体は「あさかぜ」の歴史を閉じた象徴的なアイテムとして特に大切にされているようで、現在も下関総合車両所の一般公開時に見ることができます。

 

 

上りラストランで使われた日付入りの「あさかぜ」。機関車に取り付ける部分の形状が異なっています=2010年

 

 

日付入りヘッドマークは「あさかぜ」廃止後も下関総合車両所などの一般公開でよく登場します=2009年

 

 

 

一つのヘッドマークの運用期間(寿命)はどれくらいだったのでしょうか。「あさかぜ」の場合、1日2往復運転されていたころは最低でも4枚必要でしたが、最終的には「下関あさかぜ」のみとなり、2枚で足りることになりました。晩年の年季が入った個体を見ると、最後のころは新規に制作されることはなく、持ち合わせの個体を粘って使っていたのかもしれません。

 

 

列車や機関車に興味はあっても、ヘッドマーク自体はそこまで意識していませんでしたが、「あさかぜ」には個性的な風の形をした個体もあり、さらに調べてみると面白いかもしれません。

 

 

一般公開でEF65 1126に取り付けられたタイプ1。伝統と風格が感じられます=2011年

 

 

 

※本稿は私の当時の撮影記録と思い出を基にしたものです。晩年のヘッドマークは今回ご紹介した以外にもあったかもしれません。

 

 

 

 

※晩年の「あさかぜ」については、以下の記事でも紹介しています

 

 

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