「あっ、ちがうかな。」

夕方、ある場所で買い物をしていた時、お客さんの中に、見覚えのある姿が。

そう、それは、母の訪問介護に来てくださっていた看護師さんの1人だった。

マスクはしていたけれど、多分そう。〇〇さんだと思った。

近くに駆け寄って、声をかけたい気持ちだったのだけれど・・

できなかった。

母が亡くなって、もう2ヶ月がたとうとしている。
最後の1ヶ月は、本当に、訪問看護師さんたちにお世話になった、深い深い1ヶ月だった。長くて、短い1ヶ月だった。
母と過ごした日々は、たくさんたくさんあったのに、その最後の1ヶ月の重みが、まだ、今も、はっきりと、私の感覚に残っている。
母と過ごした最後の1ヶ月の、いろいろな思いの詰まった時間。

まだ私は、その時間を、消化しきれていないのだ。
まだまだ、だった2ヶ月前のことなのだ。私にとっては。

だから、ふと見かけた看護師さんに、声をかけたい、だけど、声をかけたら、きっと涙が溢れるに違いない。リボンのときもそうだったから。
だから、声をかけられなかった。

実は同じ場に、妹もいて、妹は、私以上に、本当は声をかけたかったらしい。でも、しなかった。できなかった。
母の呼吸が止まり、その看護師さんに来てもらった時、私は新聞の配達中で、母のそばにいたのは、妹だった。
最後のエンゼルケアをしてくださったのも、その看護師さんだった。

ありがとうございました・・
心の中でそう言いながら、
看護師さんの後ろ姿を、私と妹と見送った。見えなくなるまで。
やっぱり声をかければよかったかなと思いながら。

もう少し、もう少し時間が経ったなら、その時は、声をかけられるだろか。