不明になった高齢者たちのなかには、人生の小さなつまずきから家族や社会とのかかわりを失った人もいた。どうすれば逆境を跳ね返すことができるのか。東京・国立競技場などで19日まで開かれている全日本マスターズ陸上競技選手権の出場者に体験を聞いた。

 200メートルなど短距離走3種目に出た山口県下関市の的場義夫さん(90)は、24年前に妻を亡くしてから独り暮らし。今夏、熱中症で起きあがれなくなった。救ってくれたのはラジオ体操。毎朝、ラジオを持って公園に行き、みんなで体操をしている。「私がいないと始まらないから、行かないと来てくれる」

 1カ月ほど寝込んだが、近所の人が食料品を届けてくれ、体調は回復。無事に大会に出場できた。「1人は寂しいこともあるけど、近所の方が助けてくださる」

 短距離走と砲丸投げに出た京都市の宮崎秀吉さん(99)は3年前、自宅で転んで足を骨折した。「このまま寝たきりになりたいの」。看護師に言われて、はっとした。リハビリは涙を流すほど厳しかったが出場を果たせた。もうすぐ100歳だが、上を目指す気持ちは変わらない。

 女性の最高齢は熊本県八代市の守田満さん(87)。人生で一番つらかったのは、20年前に自宅が全焼した時だ。引っ越し先で、近所の人に地域の運動会に誘われた。リレーの第1走者。40代の人と競ってトップでバトンを渡すと、気持ちが晴れた。それから陸上に打ち込むように。「家は丸焦げになったけど、おかげで陸上に出会えた」

 最高齢は岩手県釜石市の下川原孝さん(104)。5年前から参加し、今年もやり投げなど3種目に出た。「技というのは力じゃなく、心」

 70歳を過ぎて、妻を亡くした。「おいしいね」と語り合える相手がいない。時間はあるのに、目も耳も弱り、テレビも見られない。はしご酒で憂さを晴らした。「生きていても仕方がない」と思った。

 前向きな気持ちを取り戻せたのは、85歳で詩吟を始めた時だった。「ダメな時でも、切り抜けられるのが人間のいいところ。気力が大事だね」