まずは、実在の人物を描いた【伝記絵本】を。
つよい心と情熱を胸に、古い因習を打ち破っていった 女性の物語です。
エンパワーメントの絵本 【伝記絵本】 ~夢を貫いた女たち~
『数字はわたしのことば』作者のシェリル・バードーは、シカゴ自然史博物館の元シニアマネージャー。
こちらは、バードーが強く心ひかれたという、18世紀に実在した女性数学者ソフィー・ジェルマンを描いた伝記絵本です。
マリー・ソフィー・ジェルマン
(Mary Sophie Germain)
1776-1831
フランス パリ生まれ
☆18世紀に生きた女性数学者
☆〈フェルマーの最終定理〉証明における多大な貢献を果たした
☆彼女の「振動」の研究は、エッフェル塔や、後の高層建築における理論に応用されている
☆現在の数学オリンピック大会でも〈ソフィー・ジェルマンの恒等式〉はよく出題されている
女性の立場が弱く能力を認められない社会にありながら、決して諦めることなく(大好きな)数学の道を貫いたソフィー。
彼女の半生を、絵師バーバラ・マクリントックが豊潤なイメージで蘇らせました。
*
1776年、パリの裕福な商家の娘として生まれたソフィー。
〈女の子なんて、せいぜい頭にかざるリボンや、ピアノでひく曲のことぐらい考えていればよろしい〉と言われた時代に、彼女は数学という学問を心から愛し、数学の研究に人生を捧げることになります。
ソフィーが少女の頃、フランス革命が起こりました。
バステューユ襲撃など街中は危険にあふれていたため、彼女は父親の書庫にこもり、ひたすら本を読んで過ごします。
そのうちに「数学者にとって数字は、宇宙のなぞを問いかけ、さぐり、ときあかすことば」であり、「詩人がことばをつかうのと同じ」......そのことに気がついたソフィーは、ますます数学に夢中になっていきました。
彼女が19歳の頃にフランス革命はおさまりますが、大学に行きたいと願っても女性に門戸は開かれていません。
大学の数学の課題をこっそり手に入れ、著名な教授に宛てたそのレポートを、男性の偽名を使って(!)次々と送るようになります。
そんなある日、教授が家を訪ねてきます。この若き天才数学者の正体が実は女性だったとは......どんなに驚かれたことでしょう。
ソフィーはますます勉強に没頭し、世界的な数学者たちと文通を行う仲になります。
しかし、難解とされる数学の証明に幾度成功すれども、"女である"という理由一点で、アカデミーには認めてもらえませんでした。
とかく文章のみで説明されがちな「伝記絵本」ですが、こちらの作品では絵師・マクリントックの表現が隅々まで冴え渡っています。
ソフィーがどんな逆境にあっても、「数字」はひたすら明るく弾んでいます。
彼女を包みこむように、時に外敵からその身を守るように、、、寄り添う存在として描き出されます。
数字は彼女の愛そのものであり、数字だけが、彼女が信頼する生涯の友だった......そのことがこちらにしっかりと伝わってきます。
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アカデミー(大学)内に入る許可すらもらえなかったソフィー。
でも、彼女はけっしてくさりませんでした。
何度でも、何度でも、何度でも、
何度でも
挑み続けるのです。
そんなソフィーと男性の学者(権威)を、鮮やかにユーモラスに対比し描き出した場面があります。
なんて痛快!そして爽やか!
(ぜひ、お手に取ってみてくださいね)
長い歳月の果て、ソフィーはようやく栄光を掴み取ることとなります。
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何かを言い訳にしたり、誰かのせいにしてあきらめたり、敵と定めてやっつけたところで、自分自身が強くなれるわけじゃない。
そういうダサイのはまとめて蹴飛ばしてしまえ。
いちばん強いもの
それは純粋な思い――。
〈外に対する力をもたない人ほど、内にある心はつよくなるものです〉
おそれず、卑屈にならず、好きなことをまっすぐにみつめ続けた18世紀のソフィーから、私は大いに勇気をもらいました。
強くならなきゃと強いるのではなく、
誰もが同じ地点に立つ未来を信じて。
希望とともに、祈りとともに手渡したい絵本でもあります。
さあ、
くさらず前へ。
(2022年7月には、ソフィー・ジェルマンをモデルにした漫画『天球のハルモニア』(講談社)が発売されています。)
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