2022年2月24日
ロシアによるウクライナ侵攻。恐れていた戦争状態に入ってしまいました。
ウクライナ?
いまひとつピンとこない……という方も、もしかしたらこの絵本なら見たことがあるかもしれません。
〜ウクライナ民話の絵本〜
☆『てぶくろ』
(エウゲーニー・M・ラチョフ絵/内田莉莎子訳 1965年 福音館書店)
「わたしもいれてくれ」
「ちょっと むりじゃないですか」
「いや、どうしても」
「それじゃ どうぞ」
小さな手袋の中です。
みんなが一緒に入るなんて、土台無理な話……
そう思わせながらも物語は展開します。
ねずみが、かえるが、うさぎが、狼が、
最後には熊までやって来ます。
厳しく長い冬。みんな雪の中でよほど困っているのでしょう。
「ちょっと むりじゃないですか」
「それじゃ どうぞ」
……
第二次大戦後は、ソ連の国でありながら国連に議席を持ち、'91からは独立国として30年の歴史を持つウクライナ。
絵本『てぶくろ』がソ連で出版されたのは1951年のことです。
エウゲーニー・ミハイロヴィチ・ラチョフ(1906-1997)は、ロシア連邦シベリアのトムスク生まれ。
ロシアを代表する絵本作家です。
ウクライナの首都キーウ(キエフ)で美術師範学校を卒業後は、キエフ出版所文化美術部に職を得て挿絵の仕事をしました。
絵本『てぶくろ』には、民族服を身に着けた動物たちが次々と登場します。
ラチョフはこれについて、
「動物の中で民族性を強調し、動物が表現しようとする人間性を強調した」
と、その意図を語っています。
(参照:日本児童文学学会編『児童文学事典』東京書籍)
誰もかれも、自分と同じように何かを思う大切な存在であるということを、ラチョフは子どもたちに伝えたかったのではないでしょうか。
またラチョフはかつて、動物の絵について「手本になるようなものを探した」とも語っています。
「なかでも北斎の絵からまなぶところが多かったと思う」
(参照:『日本児童文学』1969年4月号)
……
「どこか遠くで起きている」「無関係な争い」ではなく、私たちとの縁や繋がりに思いを馳せ、違うもの同士が共に生きることの意味を思いながら、あらためてこの『てぶくろ』を読んでいただけたら。
このウクライナの昔話は、最後、てぶくろを落としたおじいさんが戻ってくるシーンでエンディングを迎えます。
散り散りになったかれらに、ふたたび暖かく安心できる場所がもたらされますように――。
***
ちいさなお子さまの中には、戦争の報に不安を抱える子が少なくないかもしれません。
ロシア発の心温まる物語
『ハリネズミと金貨』
(V・オルロフ 原作/V・オリシヴァング 絵/田中潔 文 2003年 偕成社)
こちらも併せてご紹介します。
ハリネズミのお爺さんが、森の道で金貨を拾います。
年老いて冬ごもりの支度も大変になってきたので、この金貨で干しキノコでも買おうかと考えながら歩いていきますが……
「たっぷりめしあがって!
その金貨は、くつにつかうといいわ。」
「その金貨は、ほら、あったかいくつ下にでもつかいなよ。」
こんなふうに、行く先々でみんなが、あたりまえのように、お爺さんに親切にしてくれるのです。
なんて優しい世界でしょう。
子どもたちにこの絵本を読んで聞かせると、かれらの表情がみるみる和らいでいくのがわかります。
「こうあってほしい世界」をイメージするとき、わたしの頭には真っ先にこの物語が浮かんできます。
作者のウラジーミル・オルロフ(1930-1999)は、ソ連時代にロシアからウクライナへと帰属が変わったクリミヤ地方で活動した児童文学作家、詩人、劇作家です。
(ウクライナの児童図書館にはオルロフを記念する名称がつけられています)
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こちらで紹介した絵本に限らず、多くの子どもの本には「明日を生きる希望」がしめされています。
きれいごとでなく、