2021.12.17

TOJO絵本大賞 2021


こんにちは。今年、活動開始から11周年を迎えました、絵本コーディネーターの東條知美です。

「TOJO絵本大賞 2021」は、東條が2021年に出会った新刊絵本の中から、‘’この絵本が好き!” “ぜひみなさんにも読んでもらいたい!”…とお伝えせずにいられなかった作品を、冊数制限を設けずに選び出したものです。その結果、2021年は受賞作が18点(!)にまでのぼりました。それぞれに魅力あふれる作品であり順位はどうしてもつけられません。だからつけません。
皆さまと絵本のよき出会いの一助となれましたら幸いです。

部門賞として「エンパワーメント絵本部門」「親子で読みたい絵本部門」「心に寄り添う絵本部門」「アーティスティック絵本部門」を設けました。

来年以降もこれを続けていくのかどうかは未定ですが、こうして何らかの方法で創り手のみなさまに拍手を贈り、感動をありがとう!とお伝えできたらいいなと思います。

子どもに絵本を。大人にこそ絵本を。

いやあ、絵本ってほんとうにいいものですね。


※2020年10月以降に発売された作品が対象です。(コロナ禍でたいへんでしたし。)

選出に関しましては、絵本コーディネーター東條知美個人の趣味・嗜好・経験その他が色濃く反映されておりますことをご了承下さい。また、選出においてはいかなる賄賂・脅迫・圧力も受けておらず、いかなる気遣いや義理立てもございません。純度100%ゆえに余計ビクビクしながら発表しておりますことをくれぐれもご承知置き下さい。

予算・体力・運命の悪戯等により、東條が出会えていない絵本が他にもまだたくさんありますことをご承知置き下さい。





***


親子で読みたい絵本部門



親子で読んだらさぞ楽しいだろうな、笑いあえるだろうな、会話が弾むだろうな…と確信した5作品を選びました。



***





👑『しましましましょ』

北村人(小学館)


【東條コメント】

子どもがクレヨンを、そのちいさな手で力いっぱい握りしめて描いたような……そのくらい"けれん味のない"、無垢を感じさせる線。一目惚れしました。


〈しましましましょ しましましましょ〉……

魚もクマも人も、電車や信号、海や空まで、み〜んなきれいな縞模様に変身してしまいます。

色で描く楽しさ、しましまの世界であそぶ楽しさ、そしていたずら心がいっぱい!

心が弾んでそのまま飛び出してくるような絵本です。明るい色彩と奇想天外な展開は、子どもだけでなく大人の心もグッとつかんで放しません。



***



👑『もうふちゃん』

くさかみなこ/よしむらめぐ(小学館)

【東條コメント】

「ちいさな子ども×毛布」というと、心理学用語にもある〈ライナスの毛布〉が思い起こされますが、そのくらい、暖かくて柔らかい「わたしと共にあったもの」は、子どもにとってとくべつな存在ということなのでしょう。この作品中にも、毛布と「チイちゃん」の固い絆がしっかりと描かれています。

と同時に、うつくしい秋の風景や森の薄暗さ、持ち主とはぐれて旅をする「もうふちゃん」の出会ったすべてが、丁寧に丁寧に描き出されています。

ちいさな読者を物語のよろこびに誘おうとする、創り手の思いが伝わってくる作品。

「もうふちゃん」が形を変えるラストのオチは、好みの分かれるところかもしれません。いずれにせよ、人に優しいことは素敵なこと…というメッセージを、「もうふちゃん」と一緒に旅したちいさな読者は、きちんと受け取ってくれることでしょう。心の深いところに根を下ろすストーリーです。


***



👑『なわとびょ〜ん』

シゲリカツヒコ(KADOKAWA)

【東條コメント】

クラス対抗の大縄跳び大会を前にして、なわとびが苦手なケンタは憂鬱です。放課後の練習をサボって逃げ出そうとすると……行く手をふさいだのは、奇妙なカエルの被り物をしたふたりの男たち。

さて、大縄の端を持たされたケンタはどこへ連れて行かれたのでしょう?年寄りが集まる公園、おおきなかぶの畑、渋滞の高速道路、忍者屋敷、サバンナの大草原…!?

ドラマティックで迫力あふれる構図、圧倒的画力(!!)で描きこまれたナンセンスな世界。

さっきまで腰をさすっていた老人も、渋滞の車も、忍び込んだ曲者も、なわを回せばみーんな

〈はっ!〉

…思わず飛んじゃうんですから(笑)

子どもよ、なにがあっても思いつめないで。こんな、"大人が本気でふざけた素晴らしい作品"を読んでガハハと笑って!絵にある仕掛けを隅々まで面白がりながら、自由におおらかに、跳ぼう!


***



👑『あまがえるのぼうけん』

たてのひろし、かわしまはるこ(世界文化社)

【東條コメント】

細密に描かれた美しい自然、可愛らしいアマガエルの姿形。(そうそう、この指先の丸み)


「やっぱり こんなところに こなきゃよかった……」

「もう ぼくたち、にげてかくれてばっかりだよ」


作中、こども(あまがえる)にとってたいへんな冒険が繰り広げられますが、安心してください。未熟で無鉄砲な3匹だけれど、ちゃんと生きる知恵を身につけているのです。

しかし「生きる」とは、なんと危険と冒険に満ちていることでしょう!


細密に描かれた自然描写は、読む者に、草の匂いや土の匂い、虫や鳥のやかましいくらいの鳴き声、森に棲むものの気配、昼間のあたたかさ、夜の冷たさ、土の湿り気……それらすべてを感じさせてくれます。


記憶と感覚の扉を開く、ドラマティックな絵本『あまがえるのぼうけん』。

生きる力がむくむくとわいてくる作品です。


***




👑『ぽぉぽぉぽぉってどんないみ?』

しんよんひ(岩崎書店)

【東條コメント】

言葉の通じない人、ちがう国からやって来た人と、どうしたら仲良くなれるのだろう?どうしたらわかりあえるのだろう……という(昨今の大人たちにこそ投げかけたい)普遍のテーマを、子どもにもわかるやさしい物語で示した作品。作者のしんよんひさんは韓国・ソウルの出身です。

心にとけこむような水彩画。落ち着いた色調で織りなされる青や緑色、その美しいグラデーションの世界は心をホッとさせます。

ウサトくんは、転校してきたリスンくんに思い切って話しかけてみます。そして、わからない言葉を話すリスンくんの気持ちを想像してみます。遊んでみます。たくさんの時間を一緒に過ごします――。

そう、私たちはつい頭で考えすぎてしまうのだけれど、相手のことを「わかりたい」と思うのなら、近づいて互いに知り合えばいいのです。

〈いろんな ことばを、いろんな きもちを、わかりあおうね。〉……


 リスンはわたしかもしれない。

ウサトくんはあの子かもしれない。


うれしい気持ち、さみしい気持ち、言葉にできない気持ち…いろんな気持ちがたっぷりつまった感動作です。


見返し一面の素敵なおまけ、「リスンくんたちのことば」「ウサトくんたちのことば」(しんよんひさんによる手描き)がかわいい!

誰かにお手紙を書きたくなりますよ。