2021.12.15

TOJO絵本大賞 2021


こんにちは。今年、活動開始から11周年を迎えました、絵本コーディネーターの東條知美です。

「TOJO絵本大賞 2021」は、東條が2021年に出会った新刊絵本の中から、‘’この絵本が好き!” “ぜひみなさんにも読んでもらいたい!”…とお伝えせずにいられなかった作品を、冊数制限を設けずに選び出したものです。その結果、2021年は受賞作が18点(!)にまでのぼりました。それぞれに魅力あふれる作品であり順位はどうしてもつけられません。だからつけません。
皆さまと絵本のよき出会いの一助となれましたら幸いです。

部門賞として「エンパワーメント絵本部門」「親子で読みたい絵本部門」「心に寄り添う絵本部門」「アーティスティック絵本部門」を設けました。

来年以降もこれを続けていくかどうかは未定ですが、こうして何らかの方法で皆さんにご覧いただき、創り手に拍手を贈り、感動をありがとう!とお伝えできたらいいなと思います。

子どもに絵本を。大人にこそ絵本を。

いやぁ、絵本ってほんとうにいいもんですね〜


※2020年10月以降に発売された作品が対象です。コロナ禍でしたので、少し前の出版作品も選ばせていただきました。

選出に関しましては、絵本コーディネーター東條知美個人の趣味・嗜好・経験その他が色濃く反映されておりますことをご了承下さい。また、選出においていかなる賄賂・脅迫・圧力も受けておらず、いかなる気遣いや義理立てもございません。純度100%ゆえ余計にビクビクしながら発表しておりますことをくれぐれもご承知置き下さい。

予算・体力・運命の悪戯等により、東條が出会えていない絵本が他にもまだまだたくさんありますことをご承知置き下さい。





エンパワーメント絵本部門



エンパワーメント とは、人々に希望を与え、勇気づけ、人が本来持っているすばらしい、生きる力を湧き出させること――。

子どもに、女の子に、悲しみの底に沈んでいる人、生きづらさを抱えたすべての人に……2021年は優れた「エンパワーメント絵本」が多く生まれた年であったと思います。


***



👑『あなたの すてきな ところはね』

玉置永吉/えがしらみち(KADOKAWA)

【東條コメント】

子どもにああなって欲しい、こうなって欲しいと、知らずしらずのうちに親の理想を押しつけてしまうことってありますよね。だけど本当に大切なことは、ただひとつ。

〈あなたが きょう ここにいる っていうこと〉……そのことを思い出させてくれる絵本です。

輝きに満ちた子どもの世界を、やわらかく生き生きと描き出すえがしらみちこさんの水彩画。その絵を引き出したのは、玉置永吉さんによる穏やかで心地よいリズムを持つテキストです。

繰り返される「ことば」と、「絵」が、心にあたたかくしみ渡っていきます。

〈あなたのすてきなところはね、〉

繰り返し声に出され耳に届くことばは、おまじないです。親にかけがえのないわが子を意識させ、子には、大切に思われている絶対的安心と満足をもたらすことでしょう。

「生」をまるごと肯定するこちらの絵本。ひとりで読む人も、ぜひ声に出して読んでみてください。

表紙絵の正面を向いた男の子の瞳は、「ぼくをちゃんとみていてね」と語りかけているようにも見えます。


***


👑『せかいでさいしょにズボンをはいた女の子』

キース・ネグレー/石井睦美(光村教育図書)

【東條コメント】

世の中の「当たり前」にさからって、周りと違う行動をとるというのは、よほどの強い人物でないとできることではありません。

女性がズボンをはけなかった時代に、異を唱え行動した主人公。モデルは19世紀アメリカに実在した一人の女性。

〈わたしは わたしの ふくを きているのよ!〉

…この戦いの先に私たちの自由があるということを、改めて思う絵本です。勇気をありがとう、メアリー!

さて、そんな骨太なテーマ・メッセージを掲げながらも、印象はあくまでも軽快でキュート。バリエーション豊かなテキスタイル(洋服の柄)、人形のように人物を描いた手法、洒脱な色彩で手に取る者の目を喜ばせてくれる絵本でもあります。


***


👑『メンドリと赤いてぶくろ』

安東みきえ/村尾亘(KADOKAWA)

【東條コメント】

持ち主が右利きであるという理由でいばる「右のてぶくろ」と、雌だという理由で(周りから)大声で鳴くことをとがめられるメンドリ。

ラスト、メンドリは、ほかの誰かの真似をしても幸せを手に入れることはできないのだと気づきます。「自分のままで」、ありのままの姿で望みを叶えようと前進します。

てぶくろは、ひとの思いを大切にしない、独りよがりだった自分を悔い改め、元の場所へと帰っていきます。

こりかたまった考えや古い価値観から解き放たれるのは、とてもむずかしいこと。かれらが"新しい目"を持てるようになるためには、他者との出会い、それから、自分自身とじっくり向き合う時間が必要でした。

大人が読めば、ジェンダー差別や同調圧力問題、偏見からの解放といったいくつかの社会テーマがさりげなく盛り込まれていることに気づくことでしょう。それを物語という仕掛けに乗せ、子どもたちに届けた意欲作。

〈新しい朝がきたことを、告げてやれ。世界中に 告げてやれ。

ストーリーテラー安東みきえは、まさにこの一言のためにこの作品を書き下ろしたのではないでしょうか。

時にカメラのように縦横無尽に、時に抒情性豊かに、シーンを切りとる村尾亘の絵。爽やかな読後感の絵本。


***


👑『かなしみのぼうけん』

近藤薫美子(ポプラ社)

【東條コメント】

大切なペットの死に打ちひしがれる人物を描きながら、同時に、生への力強い讃歌、希望が映し出されます。

ものすごい迫力です。一冊の絵本に、深いかなしみ、拒絶、怒り、回復、再生と希望…それらすべてが描かれているのですから。

読み終えた後に上下をひっくり返してみると、"それまで見えていなかったもの"が見えてきます。

作者の近藤薫美子はこのトリックアート(仕掛け)について、「少しでも明るい気持ちになってもらえたら」と語っています。

木炭の黒い色が、まっさらな白色に溶けこんでいきます。

三輪車の軋む音はレクイエム。

目に耳に、心に直接はたらきかけてくる[レクイエム絵本]です。


***

👑《エンパワーメント絵本部門》 


👑《親子で読みたい絵本部門》 


👑《心によりそう絵本部門》 





絵本コーディネーター東條知美