山の麓で『おでん・雪窓』の屋台を出すおやじさん。
屋台の客となり、やがて助手になって働くようになった狸。
そんなある晩、おやじさんの亡き娘によく似た少女が屋台を訪れる。
少女は手袋を片方忘れていって...。
* * * * *
(ここから先、ネタバレを避けたい方はご遠慮ください。)
物語の構成はざっと8つから成る。
①男たちが飲みながら、屋台『おでん・雪窓』のおやじさんと話している。
②冬。気のいい狸の客がやって来てやがて助手になる。おやじさんの心が少しずつ癒されていく。
③ある晩、亡き娘にそっくりな少女が現れ手袋を置き忘れて行く。
④おやじさんと狸は、屋台をひいて少女を探しに行く。
娘を亡くしたあの夜と、同じ山を登っていく。
⑤暗闇の山。途中、天狗や小鬼たちと出会う。屋台をひきながら、娘との日々を思い出すおやじさん。
⑥下り坂で「ひどく気味の悪いもの」の気配。思わず手を離した途端、屋台が坂下へと走り出す。
⑦山向こうのふもと(おそらく、おやじさんがかつて娘と暮らしていた村の入口)まで追いつくと、屋台は無傷。中であの少女が微笑んでいる。
「いらっしゃいまし」
おでんがどっさり煮えている。娘が手袋をはめて「おいでおいで」をすると、四方八方から客が集まってくる。
⑧翌朝。巡査に起こされるおやじさんと狸。夢か?
夕べの売上金がどっさり置かれている。
「あれは、やっぱり」......
***
「あれは、やっぱり、美代だった」
おやじさんによる回想シーンを挟みながら、過去と現在、現実と異境を行きつ戻りつする複雑な構成。
「あれは、やっぱり」......
***
「あれは、やっぱり、美代だった」
おやじさんによる回想シーンを挟みながら、過去と現在、現実と異境を行きつ戻りつする複雑な構成。
安房直子の名ストーリーに、山本孝の絵仕事が見事に応えた。
***
山の中
気のいい狸
わけありのおでん屋台(店主)
いたずらっぽく微笑む娘
暗闇と灯りのコントラスト ......
物語の舞台となる山の深さも静けさも、(屋台で)交わされる人情も、
とくに説明があるわけじゃない。
ページの端々から感じられる。
それがしみじみとせつない。