―お留守番の子どもは なんにでもなれる。どこまでも 行ける―
『スロバキアのともだち・はなとゆろ おるすばんのぼうけん』(福井さとこ 作 JULA出版局)
表紙を見ておわかりいただけるでしょうか?
この絵本、素朴であたたかみのある西洋木版(版画)で描かれているのです。
目がチカチカするよなキラキラの絵本が「どや!」と平置きされた店内で、もしかしたら一度は見過ごされてしまうかも...この ぐっと落ち着いた色調。
「あ、みつけた」
ほんとうを言えば、
わたしだけの一冊、胸に抱えたくなるような絵本との出会いはこうでなくっちゃいけません。
* * * * *
作者は新人・福井さとこさん。
学生時代より憧れていた絵本作家ドゥシャン・カーライ師匠の指導を受けるため、ブラチスラバ芸術大学(スロバキア)に留学。
遥か彼の地で、人々と出会い様々な経験を重ねたことは、彼女の創作にとってかけがいのない宝ものとなったことでしょう。
なんでも、スロバキア在住の絵本作家の降矢ななさんにもずいぶんお世話になったのだとか。
* * * * *
『おるすばんのぼうけん』は、こんなお話。
おにいちゃん(ゆろ)と妹(はな)が2人でお留守番をします。
寂しがる妹に、おにいちゃんは魔法の呪文を唱えてみせます。
「チャーリー マーリー フック!」
すると可愛い馬が出てきます。
「さあ、ぼくたちも いこう!ぼうけんだ!」
靴下のウサギ、
本の形の顔をしたフクロウ博士、
最後に2人が乗り込む電車は、いったい何をこれに見立てたのでしょうか?
...それは読んでのお楽しみ♪
”布一枚”、“ダンボールひとつ”
それさえあれば
お留守番中の子どもは
なんにでも なれる。
どこまでも 行けるんですね。
『スロバキアのともだち・はなとゆろ おるすばんのぼうけん』には、実際にスロバキアで親しまれているわらべ歌や、ふしぎな呪文が たくさん登場します。
「アカフカフンダルカ......」
声に出して唱えてみてください。
親子で、あるいはお孫さんと一緒に空想の世界で遊んでください。
ひさしぶりの<空想遊び>。
そう、本来こどもって(かつてこどもだった私たちも)こんな自由な生きものだったのです!
大人がいない時間にこどもたちがどれだけ心を解き放ち、ここではない世界に遊ぶことができるのか...
福井さとこ作『おるすばんのぼうけん』は、それをあらためて我々に思い出させてくれる 【こども再発見絵本】といえるでしょう。
絵本コーディネーター東條知美