<理論社創立70周年特別企画> 児童文学作家 岩瀬成子さんトークショー

『小さな出会いからはじまった~ 理論社とわたし』(於:ブックハウスカフェ) に参加しました。

 

 


並み居る児童文学作家の中でも抜きん出た感性、「子どもの眼差し」の持ち主である岩瀬成子さん

社会的なテーマに対し正面からさらりと切り込み、自然なトーンで物語に忍ばせる作家。

 

 

以前から岩瀬作品の大ファンである私は、6月の「JBBY賞」授賞式にて、ご本人に直接お話を伺う機会に恵まれ大興奮でした。ほんの一言二言でしたけれど...


今回はゆっくりとお話を伺えるトークショーです。


私ごとですが、子ども時代、特別な読書体験はいつも「理論社」の本でした。(原点がここだったので、大学の卒論も灰谷健次郎をテーマにしたほど)

 

ああ、なんて嬉しい企画でしょう。

岩瀬成子×理論社

 

おぼえている限りとなりますが、トークショーの様子をレポートさせていただきます。

 

 

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「1974年3月 今江祥智さんとの出会いが児童文学との出会いでした」と、話を始められた岩瀬成子さん。


子どもの頃は、フィリパピアスの『トムは真夜中の庭で』、ケストナーの『点子ちゃんとアントン』、『ふたりのロッテ』、『飛ぶ教室』...

これらの作品を、公民館や学校の図書館で借りて読まれたそうです。

 

「興味あるものしか読まない」 「児童文学のことはよく知らない」などとおっしゃいますが、いえいえ、古今東西の名作をしっかり読んでこられたことがわかります。

 

おもしろいのは、お気に入りだったという物語の特徴。

 

『不思議の国のアリス』

...「穴に落っこちて行く場面がすごく好きだった」

 

『雪の女王』

...「カイルの目にガラスの破片が入る。そこに惹きつけられた」
「親からひねくれていると言われていたが、私のせいではなく破片のせいだと思いたかったのかも(笑)」

 

『すずの兵隊』

...「風でとばされ、落ち熔けてしまう儚さに惹かれた」

 


やるせなさ
哀しみ
寂しさ
...そういったものに、子ども時代の岩瀬成子さんは惹かれていたのですね。

(小川未明なども、ひょっとしたらお好きでいらしたのかも)

 

 

「ひとりきりになれるから」好きな場所だったという、図書室のお話も飛び出しました。


「先日、地元の図書館に行ったら“フィリパ・ピアス”、“カニグズバーグ”、“今江祥智”、“灰谷健次郎”、さらに“あまんきみこ”作品が開架の棚に置かれてなかったんです」

「貸出し実績数に焦点をあてるあまり、表紙がかわいくて面白おかしい流行りの本に棚を譲る傾向のある図書館が、もしかしたら全国的に増えているのかも。」(岩瀬さん)

 

岩瀬さん曰く、本には背表紙の力というものがあり、たとえば図書館などでは「そこに並んでいること」「背表紙が見えること」、「目に触れられる存在であること」が絶対に必要だと。


「だって目に触れなければ、いつかこれを読もうと思うことすらできないのだから。」
 

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岩瀬さんと本との出会いは、(岩瀬さんが8歳の時にくも膜下出血が原因で亡くなられた)お父様によってもたらされました。

 

朝鮮から引き上げた後に炭坑の仕事に関わったというお父様は、東京土産によく本を買ってきてくれたそうです。

 

ちなみにお母さまとのご関係はというと、

「母に手伝いを言いつけられるのが嫌で本を読むと決めていた」
「母に禁止されていた貸し本屋でこっそり借りて、タンスの蔭で隠れて読んだ」

「母はいつも怒っていた。「おまえが私の寿命を縮める」って(笑)」

 

厳しかったというお母様との関係。

幼少時に言葉にできなかった思いは、登場人物のつぶやきとなり、あるいは子どもに寄りそう「理想の大人」像へと反転する形で、岩瀬作品の中でひとつひとつ浄化されているのではないか...と、そんなことを思いました。

 

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理論社の本について、いくつかのお話も聴かせてくださいました。

 

乙骨淑子の本 (第1巻) ぴいちゃあしゃん

『ぴいちゃあしゃん』 乙骨淑子 (おっこつ よしこ 作)

 

※内容、1964年当時の装丁等についてはこちらをご参照ください。(㈶大阪国際児童文学館HP)

上の画像は、1964年3月出版、1985年に「乙骨淑子の本」第1巻として、1995年「新装版 乙骨淑子の本」第1巻として再刊されたもの。現在絶版。

 

 

この作品をあらためて読み返してみたという岩瀬さん。

 

「“骨太な作品”、とはどういったものを指すのだろう?
大きな問題を正面から書く作家の姿勢があらわれているものが、それなのだと思う。」

「『ぴいちゃあしゃん』 は戦争がテーマだが、ひとりの人間として、あるいは日本人として、自分には何ができるのか?

凛々しく心をこめて書かれている。

「お子さまランチじゃいけない」
「本物でなければいけない」という今江祥智さんの言葉を思い出します。」
(岩瀬さん)

 

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若い頃を振り返ったお話の中では、
鶴見俊輔(思想家・哲学者)の支援した反戦喫茶「ホビット」での出会いのこと、

米軍基地のフェンス越しに大音量でロックミュージック流し、反戦ビラを撒いて逃げたこと、
呉市の教会に通い同じ19歳の米軍兵隊と交流したこと、その彼はベトナムの前線に出て行き以来音信不通となってしまったこと、

師・今江祥智に学んだこと、

今江氏のおかげで灰谷健次郎ら児童文学関係者との出会いがもたらされたこと......。

 

 

「岩瀬成子をつくったもの」を知れば知るほど、改めてこの作家は、理論社創業者である小宮山量平の遺志を受け継ぐ(今や稀少な)作家の一人であると思えてくるのでした。

 

 きっとこれからも、その飄々とした様子からは思いもよらないような骨太な作品でもって、社会の課題を我々ひとりひとりの問題として投げかけてくるはずです。

 

 

岩瀬成子さん、貴重なお話をありがとうございました。

 

 

 

*** 理論社の[岩瀬成子の本]よりピックアップ☆東條オススメの3冊です ***

 

 

☆『朝はだんだん見えてくる』(岩瀬成子/作 長新太/絵 1977年 理論社)


基地の町の中学生・奈々は反戦喫茶や基地反対のデモから,徐々に現実社会で生きる自我に目覚めていく。10代の青春物語。(出版社ページより)
 

 

 

☆『くもりときどき晴レル』(岩瀬成子/作 2014年 理論社)

子どもの心を描き続けてきた岩瀬成子の最新短篇集。だれかに出会ったとき、だれかの存在に気づくとき、日常に吹きこむ風。さわやかな6つの出会いと心の揺れを描く。(出版社ページより)

 

 

 

☆『まつりちゃん』(岩瀬成子/作 上路ナオ子/絵 2010年 理論社)

その子は、空き家のような家に一人で住んでいる。会う人の心をふしぎに暖かく照らす五歳の女の子をめぐる小さな奇跡の物語。(出版社ページより)

 

 

岩瀬成子さんの物語には、読み進めていくうちにいつの間にかしくしく胸が痛み出したり、じわじわ温かいもので満たされて、なぜだろう?涙が出てしまう...…といった作品が少なくありません。

けっして大仰に構えない子どもへの視線、社会課題への向き合い方がここにあります。

独特の間合い、余韻をぜひ味わってみてください。


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11/3-11/13 国土社と理論社のコラボ会場は、貴重な作家の手紙、原画、パネル年表の展示に加え、たのしい遊び場も。もりだくさんでした♪

 

  

 

絵本コーディネーター 東條知美