子どもの本の国際賞に対し、推薦活動を行うJBBY(日本国際児童図書評議会)という組織があります。

 

国内選考会を経て、海外へ紹介された作品、作家、出版社へ贈られる「JBBY賞」。

その授賞式&懇親会に参加しました。

 

 

授賞式に出席された作家のみなさんと、出版社の方々。

 

 

 

角野栄子さん(国際アンデルセン賞候補)

 

 

角野栄子さんは「作家なんて、みん~なうそつきなんですよ」と会場を和ませてくださいました。

そして「ちいさなどうわたち」の中から、『おかしなうそつきやさん』を読んでくださいました。

 

 

20年以上も前になりますが、私(東條)は大学時代、角野栄子先生の創作の講義を受けておりました。

この日は20年ぶりの対面となりました。

「先生の終わらない“ダメ出し”は、私を「作り手」ではなく「手渡す人」へと向かわせてくれました」とお礼を申し上げると、

「ひっどいわねえ、当時の私ったら!」と笑ってくださいました。

 

そういえば当時から、指導の合間に『魔女の宅急便』の創作秘話など、作家の裏話を伺えるのが毎回の楽しみでした。

 


新刊「キキとジジ」
魔女の宅急便 特別編その2 
(作・角野栄子 画・佐竹美保 福音館書店)

 

 

 

創作について、もっと真面目にくらいついて学べばよかったなと思います。

まだまだ勉強、です。

 

角野栄子先生、おめでとうございます。

 

 

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ぐるーぷ・もこもこさん(バリアフリー図書部門)

 

(写真:2017年度 IBBY障害児図書資料センター推薦図書)

 

 

受賞作となった布絵本を、私もこのあと会場で手にとって見せていただきました。

 

童謡を題材とした(布)絵本はとてもやわらかく、1ページ1ページがとても丁寧に作られています。

 

 

「最初、赤十字マークを入れていたがこれに著作権があるということで、その部分を急遽作り直しました。
歌を掲載するなら、作詞家も作曲家も記載、ジャスラックに使用料を払っています。

たとえボランティアの仕事でも、それはしっかり...とメンバーにもいつも言っています」

と、野口光世さん。(写真左。右はJBBY賞審査員のおひとり、広松由希子さん。)


手仕事の高いクオリティ、その志にたいへん感動しました。

 

(JBBYの理事・撹上さんによる)歌いながらの読み聞かせもあり、とてもステキでした!

 

懇親会で、布絵本・バリアフリー絵本について私もこれからぜひ学んでいきたいということをお伝えし、ご挨拶させていただきました。

ぐるーぷ・もこもこの皆さま、おめでとうございます。

 

 

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原田勝さん(翻訳部門『ハーレムの闘う本屋』)

 

 

 

『ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯』
(ヴォーンダ・ミショー・ネルソン著/R・グレゴリー・クリスティ イラスト/原田勝 訳 あすなろ書房)

 

ニューヨークのハーレムに、一風変わった書店がありました。
ナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストア。
黒人に関する本ばかりを扱う書店、通称「ミショーの店」。
本書は、この店の店主、ルイス・ミショーに光をあてたドキュメンタリー・ノベルです。
1939年、「黒人は本を読まない」と言われていた時代に、店をオープン。
「知識こそ力」と信じていたミショーは、まずは人々の意識を目覚めさせることからと、型破りなプロモーションを展開します。そのうち、本のおもしろさ、知識の大切さを知った人が、ミショーを慕って集うようになり、ついには、全米一の黒人専門書店に!
開店当初5冊だった在庫は、古書にも目をくばったミショーの情熱により、1974年の閉店時には、22万5千冊にもなっていたそうです...
(出版社ホームページより)

 

 

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今回、壇上ではさくまゆみこさんによるインタビューも行われました。
 
 

(さくまゆみこ氏)『ハーレムの戦う本屋』翻訳のお仕事について伺います。この作品の面白さは?


(原田勝氏)登場人物それぞれが語る面白さ、どうしようもないやつが変わっていく、本の力がテーマになっています。表に出ないような人がモデル、など。そこが面白いと感じました。

 

(さくまゆみこ氏)翻訳したいと思う作品の基準は?


(原田勝氏)基準というのはないんです。理詰めで考えてはいない。よく、訳す作品が暗いと言われますが...


(さくまゆみこ氏)「暗い」というよりは、きっと「深い」のだと思いますよ。

 

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原田勝さん、おめでとうございます。
『弟の戦争』は、「ずっと手渡していきたい一冊」とよく現場で話をさせていただいております。
『ハーレムの闘う本屋』もすぐに読みたいと思います!

 

 

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岩瀬成子さん(文学部門『あたらしい子が来て』

 

 

(岩瀬成子氏)「年を取り、こだわる力が減退したんです(笑)」

 

『あたらしい子がきて』(岩瀬成子 作/上路ナオ子 絵 岩崎書店)

一つちがいの姉妹の下に、歳のはなれた弟が生まれたことで、微妙に変化していく心境を、ときにコミカルに、ときにせつなく描き出します。やっぱりきょうだいっていいな。

出版社ホームページより)

 

 

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壇上では、ニコニコと微笑まれながら多くの言葉を語らない岩瀬さん。


以前より岩瀬文学の大ファンである私(東條)は、作品の魅力のひみつ...その手がかりをどうしても知りたいと思い、懇親会会場で突撃インタビューを試みました。

 

 

(東條)
岩瀬さんの作品は、1978年の『朝はだんだん見えてくる』(岩瀬成子 作/長新太 絵 理論社)から始まり、これまでに全部読ませていただきました。

以来、表現や題材がやわらかくなってきてはいるものの、岩瀬さんの文章は、ずっと児童文学の中では異彩を放つものと感じています。

とくに昔の作品からは...時代の空気もあったのでしょうが、ちょっと不良性...たばこの匂いのようなものを感じました。

今回の受賞作品も、一見子どものほのぼのした情景や「おねえちゃんになる心情」を描いたと思わせつつ、実は、そんな大人の固定概念を冒頭から打ち砕きます。ちょっと反逆的な、なにかを感じさせます。

 

どうか質問をお許しください。

作家・岩瀬成子を作ったものとは、いったい何なのでしょうか?

たとえば「座右の一冊」などは、ありますか?

 

 

(岩瀬成子氏)

そんな風に読んでくださってありがとうございます(笑)

1冊は・・・う~ん、あまりに難しすぎる!すぐに決められません。

 

 

(東條)

今回の受賞作品もそうですが、岩瀬作品は非常に映像的であると感じます。俯瞰から寄っていき、個々の内面へ。かと思うとポンと場面転換するシーンなど。

映画や音楽が、作品に与えた影響というのはありますか?

 

 

(岩瀬成子氏)

音楽は...大好きで夢中になったのはビートルズです。もうビートルズばかり。

1964年に初めて日本でレコードが発売されたとき、周りの友だちでビートルズのファンはひとりもいなかった。
でも私は、ビートルズの音楽にすごい衝撃を受けました。ガーン!と。こんなものがあったのか、と。

 

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山口県玖珂郡玖珂町出身。山口県岩国市在住の岩瀬成子さん。

 

ビートルズがのちの表現者に与えたものがあるとすれば......

興味を覚え調べてみると、当時14歳だった岩瀬さんが聴いたビートルズを、当時すぐ近くで、同じ衝撃で感じたアーティストたちがいるとわかりました。

 

 

【ビートルズを聴いて素直に反応した全国の少年少女たち~イルカ、きたやまおさむ、そして吉田拓郎の場合】

「...北山修とは同学年の吉田拓郎がビートルズを知ったのは、1964年の初め頃だったという。当時は高校2年で広島に住んでいたのだが、学校から帰ってくると夕方5時から始まるラジオ番組を聞くのが日課になっていた。アメリカの音楽誌「ビルボード」のランキングを紹介する「ビルボードTOP40」が、岩国の米軍キャンプ向けのFENから流れていたのである。

そしてある日、ビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」が、何かの幕開けを思わせるような感じで、高らかに吉田拓郎の耳に飛び込んできた。それまで聴いてきたアメリカンポップスと違って、なにか騒々しい音楽だというのが第一印象だった。

最初は「何じゃこれ」という、とまどいに近い驚きだった。ところが何度か耳にするうちに、騒々しさが開放感に変わっていった。そのうちに4人のハーモニーが「お前も早くやれよ」と、誘っているようにさえ聞こえてきたという...」

(「エンタメステーション」佐藤剛執筆記事より抜粋)

 

 

 

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ビートルズの熱狂を、私は知りません。

 

でもそれが、「大人にはなんだか理解できなかったもの」 であったのだとしたら.....

 

“大人にはわからない”

ビートルズの音楽の本質にある、人間らしい感情。汚れなき魂。

それを受けとめる子ども(若者)の脆さ、非力さ、そして本来の強さと優しさ

岩瀬さんだけは、大人になった今も決して忘れていないということなのかもしれません。

 

 

これまでの作品の登場人物(子ども)を思いながら、私はそう考えました。

 

岩瀬さんにはまた、カラカラと笑われるのかもしれませんが・・・

 

 

まだまだたくさん書いてほしい。

いつも次が楽しみな作家さんです。
 

岩瀬成子さん、おめでとうございます。

 

 

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吉田尚令さん(イラストレーション部門『希望の牧場』)

 

 

 

 

『希望の牧場』(森絵都 作/吉田尚令 絵 岩崎書店)

原発事故後、警戒区域になった牧場にとどまり、そこに取り残された牛たちの声なき命を守りつづけようと決めた牛飼いの姿を描く。

出版社ホームページより)

 

 

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(さくまゆみこ氏)これまでのお仕事を拝見すると、いろいろな作風という印象があります。


(吉田尚令氏)それがいいとは思っていなくて...テキストにかなり影響を受けているんです。
『希望の牧場』の参考にしたのは、ベン・シャーンです。

この作品の主人公であり、実際のモデルである吉沢さんという人のいろいろな面は、ひとつの画材やタッチで表せるものではなかったんです。


森絵都さんのテキストがほんとうに素晴らしかったということ。

今回授賞は森さんの力だと思っています。

 

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吉田尚令さんには以前、私もインタビューをさせていただいたことがあります。

 

2015年3月11日

吉田尚令さんインタビュー ☆『希望の牧場』(森絵都作 岩崎書店)原画展にて

を ぜひご覧ください。

 

 

今回2年ぶりにお会いした吉田さんは、相変わらずもの静かで終始ちょっと照れくさそうにされていましたが、

「『希望の牧場』をこれからもよろしくお願いします」

と力強く仰る姿に、(この作品を描く際に強く意識したという)ベン・シャーンの骨太な作風、雰囲気は、すでに吉田さんの中に根付いている!と感じました。

 

これからどんなふうに私たちを驚かせてくれるのか、目が離せない絵本作家さんです。

吉田尚令さん、おめでとうございます。

 

 

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JBBYの皆さま、さくまゆみこさん、この度はお世話になりました。

すばらしい時間をありがとうございました。

 

 

 

絵本コーディネーター東條知美