【静かな真冬の夜に】


☆『トムテ』 ヴィクトール・リードベリ 詩 ハラルド・ウィーベリ 絵 山内清子 訳 1979年 偕成社 



「しんしんと ひえる まふゆの よぞらに、
ほしが つめたく またたいている。
もりに かこまれた のうじょうでは、
すべてが ねむりに ついている。
つきは しずかに そらを あゆみ、
やねや きぎに つもった ゆきを、
さえざえと てらしている。

めを さましているのは、
こびとの トムテただひとり。」


(※本書冒頭部分より転載)

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『トムテ』という詩はスウェーデンの詩人リードベリが1882年に発表したものです。

この絵は1960年に描かれ、すばらしい一冊の絵本が生まれました。


トムテは、スウェーデンの農場や仕事場に何百年も住むといわれる守り神のような存在。
家人が幸せになるように守ってくれるといわれています。
(日本でいうと何がいちばん似ているのかな?)


数え切れないほどの長い年月、夜番として食料小屋や牛小屋、馬小屋や羊小屋を、夫婦と子供たちの寝室を・・・見回り続けるトムテ。

月をみあげて、トムテはふとつぶやきます。


わしには まだ、どうも よく わからん。」

ひとは、どこから くるのだろう。
にぎやかに たのしく くらし、としおいて、
やがて いってしまう。
だが、どこへ いくのだろう。

「どこへ ながれて いくのだろう。
みなもとは どこだろう。」




静かな静かな 星のまたたく夜。
目に見えない者たちの存在や命のふしぎに思いを馳せながら、雪に包まれた遥かの地に佇むような不思議な感覚に。


声に出して読みたい美しい絵本です。


(絵本コーディネーター  東條知美)