【なかえよしを氏・上野紀子氏…‟伝説の編集者“との出会い(1972)】
ロングセラー絵本『ねずみくんのチョッキ』がポプラ社から発行されたのが、ちょうど40年前の1974年の8月です。
赤いチョッキを着たねずみくんのキャラクターを愛し、「親子3世代で読んでいます」という読者も多いのではないでしょうか。
その2年前(1972)、若き日のなかえよしを・上野紀子両氏が作品売り込みのため渡米しました。
当時ニューヨークのハーパー&ロー社では、(いまや)‟伝説の編集者“と呼ばれるアーシュラ・ノードストロム(モーリス・センダック、マーガレット・ワイズ・ブラウン、トミー・アンゲラー等多くの絵本作家を育てた編集者)が腕をふるっていました。
このノードストロム女史の目にとまり、翌年初めて世に送り出された作品があります。
『ねずみくんのチョッキ』シリーズへと続くこととなります・・・
〈ナンセンス絵本〉の原点ともいえるデビュー作
『ELEPHANT BUTTONS』(1973年 Harper&Row社刊)です。
‟伝説の編集者“と呼ばれるアーシュラ・ノードストロムとの出会いについて、両氏は周囲に対し長らく「編集部の奥から出てきた、恰幅の良い、編集長みたいな人」とだけ語っていました。
「入口のところで(最初に対応した人に)追い返されそうになったのだけれど、「とにかく中身を見てくれ」と頼んだんだ。
けっこう長い時間だったな・・・しばらく待っていると、編集部の奥から恰幅の良い大柄な女性が、ぼくらの作ったダミー(絵本)を胸に抱えて笑いながら近づいてきた。
突然「この作品を買いましょう!いくらで売ってくれますか?」と言われたので驚いたよ」
(なかえ氏談)
このお話を最初に伺ったのは2006年のこと。
このときは、「若い二人がアメリカの出版社に売り込みに行き、実力を買われる・・・アメリカンドリームですね」などとお話しさせていただいた記憶があります。
そして後年、絵本の勉強をする中で、
偕成社から出た『伝説の編集者ノードストロムの手紙 アメリカ児童書の舞台裏』(レナード・S・マーカス/編集 児島なおみ/訳 2010年12月)を読んだ私はもしや・・・と、改めてなかえ氏に尋ねてみることにしました。
(東條)「当時出会ったその編集者のお名前を覚えていらっしゃいませんか?」
(なかえ氏)「えーっと、たしか、ノードストンとかなんとか・・・」
・・・やはり!
このときの鳥肌は未だに忘れることができません。
なかえよしをと上野紀子の両氏が出会ったのは、
1940年から1973年までハーパー社で編集部を統括し、
センダックやブラウン、アンゲラーやホーバンを担当、
今日まで世界中で読み継がれる数多くの作品を手掛けた
‟伝説の編集者“アーシュラ・ノードストロムだったのです。
彼らはアーシュラ・ノードストロムにより見出された〈最初で最後のアジア系絵本作家〉だったのです。
……なかえ氏と上野氏が「作品を見てほしい」とハーパー&ロウ社へ飛び込んだ1972年。
この頃のノードストロム女史といえば、編集者としての仕事に加え、ちょうどセンダックが『まよなかのだいどころ』に描いた「裸の男の子の絵」に(※これをけしからんとし)おむつやパンツを書き込み修正をした図書館員らの「検閲行為」に対し抗議の声明文を発表したり、
若きエドワード・ゴーリーなども含む多くの作家たちを叱咤激励したり・・・
エネルギッシュな女史の手掛ける絵本はどれも評判を呼び『ニューヨーク・タイムズ』ではその作品を中心に絵本特集を組まれる程だったので、
ともかく東西から「作品をみてくれ」と絵本作家の卵がやってきて、その売り込みの数はたいへんなものだったのに違いありません。
そういった状況ですから、なかえ氏と上野氏が(出版社へ)ダミーを持ち込んだ際も、当初は
「担当者は席を外している」と、適当な理由で追い払われそうになったといいます。
「日本から来たんだ。とにかく中身を見てほしい」と食い下がるふたり。
しばらくして奥から現れる、満面の笑みをたたえたノードストロム。
「面白いわ。買いましょう!いくらで売ってくれますか?」
・・・・・・ここから、両氏の40年に渡る絵本作家人生はスタートしたのです。
実にドラマチックで、夢を感じさせる逸話ではありませんか。
☆このあたりのお話は、2013年2月の対談イベント
「僕らの絵本~だからなんだ!」@B&B下北沢)でも伺っております。
こちらの記録もあわせてご覧ください。
http://ameblo.jp/bokurano-ehon/archiveentrylist-201302.html
・・・・・・・・・・
なかえよしを氏と上野紀子氏の、
日本での初出版(1974年8月『ねずみくんのチョッキ』)から40周年を記念して開催された今回の展覧会が現在開催中。
9/20(土曜)にはなかえ氏による講演会がありますので、わたしも再訪する予定です。
皆様もぜひどうぞ♪
☆神奈川近代文学館(開催:8/2~9/28)☆
『ねずみくん40周年 なかえよしを+上野紀子の100冊の絵本展』
https://www.kanabun.or.jp/
絵本コーディネーター 東條知美