写真絵本をご案内します。
ご存知の方も多いと思われますが、この絵本の著者である故星野道夫さんは、1996年8月、ロシア・カムチャツカ半島クリル湖へテレビ番組の取材に同行の際ヒグマの事故によって43歳で人生を終えられた写真家です。
「この本は、星野道夫氏の遺稿と使用写真についてのメモをもとに作りました(編集部)」とあります。
「いつか おまえに 会いたかった」という一文で始まるこの絵本。
次のページでは、雪解けのアラスカの大地を空から映した写真の上に、私たちの暮らす身近な町の風景を切り取ったシーンがフラッシュ的に散りばめられます。
ページをめくると、前ページと同じアラスカの写真では見えなかったクマの親子が現れます。
「気がついたんだ おれたちに 同じ時間が 流れていることに」
ここから読者は一気にアラスカの壮大な自然、折々の四季を映した壮大な風景の中へと誘い込まれます。
全編を通し、グリズリーの「おまえ」に「おれ」が語りかけることばが静かに添えられています。
「おまえは こぐまと あそんでいる
そっと 話しかけるように
そっと だきしめるように
おれも このまま 草原をかけ
おまえの からだに ふれてみたい
けれども
おれと おまえは はなれている
はるかな 星のように
遠く はなれている」
公式ホームページにある生前のインタビューで、星野道夫さんはこう語っています。
「僕は自然には二通りあると思うんです。ひとつは毎日の生活の中で出会う小さな自然ですね。それともうひとつは遠い自然というか、自分がそこへ行かなくてもいいんだけれど、そこにあることでホッとする自然ですね。自分の意識の中ではアラスカは遠い自然なんですが、あまりに大きすぎて今だに圧倒されている感じです。」
「本当に昔のままの自然が残っています。人間もそうです。狩猟生活が主ですから、日々の生活を通して自分の一生がすごく短いんだ、ということがストレートに実感できると思います。逆に都会で暮していると自分の命に対する感覚が希薄になっているような気がするんですが・・・
ですから、もし僕が若い世代にメッセージを送れるとしたなら、生と死の感覚というか、自分の一生はすごく短いものなんだということをできるだけ若いうちに実感してほしい、ということになるかもしれません」
「僕は自然に対する興味っていうのは、最終的には人間に対する興味だと思うんです。もっと突き詰めてしまうと、自分が生きていることに対する興味なのかもしれません。だから、アラスカで撮った写真や書いた文章を通して伝えたいことも、別に『大自然がいっぱい残っているんだ』ということではないんです。アラスカに住んでいる人も東京に住んでいる人もどこかでつながっていて、共有できる部分があるはずです。基本的に人間と自然との関わりは、どこに住んでいても同じなんじゃないでしょうか。」
(※1995年、故郷である千葉県市川市の 「City Voice 市川の街から No.17」1995.春号インタビュー記事より。)
そのとき、その場にいた著者の皮膚感覚まで伝わってくるような一冊です。ぜひどうぞ。
(絵本コーディネーター 東條知美)