☆『赤いおおかみ』フリードリッヒ カール ヴェヒター作/小澤俊夫訳(2001年古今社)

絵本の中でもやや大版、60頁というボリュームのこちらの一冊。

茶色いペンで描かれたスケッチ風の線に淡い色合いの水彩が、さっぱりとした美しさを感じさせます。

表紙では紫がかった空の下、絶壁に佇む小型犬(赤毛のヨークシャテリア?)が、遥かの方をみつめています。


物語は、安心して人間に抱かれている子犬のシーンから始まります。


あたたかい家庭で育てられたこの赤い犬は、なんらかの事情で馬車に乗せられ、途中凍てついた真冬の道へ転がり落ちてしまいます。

そしてもはや凍え死ぬかと思われたその時、どこからかやってきた母狼によって拾われ命を救われます。

生れたばかりの狼の兄弟と共に乳を分け合い育てられた赤い犬。兄弟が大きく強くなるのを感じると「自分の立場を奪われまいと、夢中で戦った」、「誇り高いかあさんおおかみの見ている前で、知恵をつかい、すばしこく戦い、」「群れの中で最も尊敬されるおおかみになった」とあります。


西へ西へとうなだれて歩く人々や兵士の群れを眺めながら、太陽へ向かい東へと走る狼の群れ。そこには終わりのない大草原と森があります。


赤い犬は森で、狩りのしかたなど“生きる上で必要なすべて”を教わります。

そうして人間のことを忘れた頃、

・・・愛する「かあさん」狼が人間の罠に足をとられてしまいます。

「すべてのおおかみの父とその子孫が眠る深い谷の絶壁」まで母の亡きがらをひきずって行く赤い犬でしたが・・・・・・・


「かあさん」の死を見送っての、再びの人間との生活。

そして(赤い犬自身の)死の時が訪れた瞬間、走馬灯のように甦る自らの人生。

(※このシーンに添えられた文章は、ぜひお手にとって読んでご覧になってください。)


“どう生きるか”、“どう死ぬか”という普遍のテーマを、野生にとって避けることのできない「生死」と人間社会における生死の場面―「戦争」も含めたーを同時に見せながら、読者それぞれに問いかけるような一冊です。


最期は誇り高き「赤いおおかみ」として死ぬことを望んだこの一匹の赤い犬の壮大なドラマに、あなたは何を想うのでしょうか。



(絵本コーディネーター 東條知美)