阪神淡路大震災から19年目、1月17日の朝です。

大人にとっても子どもにとっても、大切な人が失われたとき、当事者がその事実と思いを自分自身の「ことば」にすること、また心におさめるのには相当な時間がかかるのではないでしょうか。

そんな「ことばにできない」“喪失”と、失われることのない“愛”が描かれた作品をご紹介します。


●『ふゆねこ』(かんのゆうこ文/こみねゆら絵/2010年講談社)



「あきもおわり、ひんやりとした ふゆのかぜが、あたりに ふきはじめたころ、ちさとの おかあさんが なくなりました。」冒頭のシーンでは、幼い少女がお父さんに抱かれ泣いています。

少女は「おほしさまになった」というお母さんを毎晩夜空に探しますが、どんなに探してもみつかりません。

そんなある夜「おかあさんに たのまれて やってきました」と、雪のように真っ白な猫「ふゆねこ」が少女の家を訪れ、お母さんから引き継いだという桃色の手袋を編み始めます。

「ながくて さむい ふゆのあいだ、いろんなものを あたためるのが わたしの しごとですからね」・・・・・・

 

桃色の手袋を編むふゆねこの表情は、まるでお母さんです。

少女の心にお母さんが甦ります。


手袋のぬくもりも、大切な思い出もすべてお母さんのぬくもりであり、失われることのない“愛”です。


仕事を終えたふゆねこは、やわらかな雪の中へ吸いこまれるように消えて行きます。

 

最後のシーンでは、少女に寄りそう“愛”“希望”の象徴のような、真っ白い子猫が少女のもとへとやってきます。

 

作家かんのゆうこさんが「“喪失”を抱いた少女の現実」と「雪の夜の ふしぎで幻想的な世界」を静かな物語として紡いでいます。

画家こみねゆらさんはセピアの色彩で、うつくしい雪の夜と少女の心の動きを丁寧にやさしく描き出しました。


 


見返しに描かれた編み模様も美しい一冊です。
おすすめします。


(絵本コーディネーター 東條知美)