今回お話を伺わせていただいたのは、絵本作家の山田花菜さんです。


〈プロフィール〉

山田花菜
イラストレーター、絵本作家
神奈川県南足柄市出身、在住。
3歳と0歳の男の子の母。


『クリスマスのかね

『ビリーのすてきなともだち』(教育画劇

『まじょもりのこまじょちゃん』(ポプラ社)

などがある。





お会いするといつも笑顔で、周囲をあたたかく柔らかく包みこむ人…絵本作家の山田花菜さん。

ひとたび絵本の話になると、ご自身の力で体得された硬派な絵本観を伺うことができます。

久しぶりの再会となった今回、二人の絵本の話は尽きることなく、ロングインタビューとなりました。


まずは、この季節に読みたい!「クリスマス」がテーマのこちらの作品について伺いました。



☆『クリスマスのかね』レイモンド・マクドナルド・オールデン(原作)竹下文子(文)山田花菜(絵)2009年 教育画劇

クリスマスのかね

(あらすじ)昔々、遠い国のある町に大きな古い教会がありました。教会の片隅にそびえる古い塔のてっぺんには鐘がつるされていました。その鐘には『クリスマスの夜にだけ鳴る』という、不思議な言い伝えがありました。
ところがもう長い間、この鐘の鳴る音を聞いた者はありませんでした。
クリスマスが近づくと、町の人たちは塔を見上げて話し合います。

「どうしてこんなに長い間一度も鐘が鳴らないんだろう?」
「神さまにもっとすばらしい贈り物をすれば鳴るかもしれない。」

 今年も町のお金持ちたちや偉い人々は、少しでも立派なものを・・とあらそって教会に押しかけました。
すばらしい宝石。籠にぎっしりとつまった金貨。何年もかかって書いた立派な本。王冠。


誰もが「自分こそが」と思っていましたが・・・・・・





東條:こちらは、貧しい村に住む兄弟が教えてくれる「純粋な祈り」を描く名作ですね。

 
山田さん:はい、原題は「鐘はなぜ鳴ったか」。クリスマスの言い伝えを物語にしたものです。



東條:文章を書かれた竹下文子さんとは、どういったやりとりの中で作品を完成されたのですか?


山田さん:竹下先生から文章をいただいて、こちらがラフ画を描いてお渡しする。その中で竹下先生が「これは絵で描かれているから省きますね」と文章を削ってくださったり、逆に「ここは絵で描いてください。そうすると文章を省けるから」と。

元は長いテキストである児童文学をどんどん絵本化していく作業がありました。

仕上がるまでには、編集の方も含めてかなりの試行錯誤がありました。



東條:やわらかく美しい色使いが、読み手を、この時代のこの場所へと誘います。あたたかみのあるこちらの原画は、ダンボール紙に描かれているのでしょうか?

 


山田さん:「黄ボール」という黄色いダンボール紙です。
一度白で塗りつぶして下地を作ります。乾かしてからそこに描いています。ずいぶん前からこの紙が好きで。
ざらっとした風合いが出るので、その質感が好きなんです

アクリル絵の具なのですぐに乾きますし。

 


東條:真っ白い紙とくらべて、お話に含まれる抒情や時代性をより深く感じられます。




東條:お話の主人公であるペドロと弟。幼い弟の方は、ここでは不安の表情ですね。
登場シーンでは、パンをこぼしながら食べる様子なども描かれていますね。お兄ちゃんは落ち着いている。

 


山田さん:ポーズや表情を描く上で、やはり自分の子どもが参考になることがあります。想像じゃなくて、ちゃんと観察できるので。










東條:雪の夜の色が、独特の青で美しく表現されています。
教会に光が満ちる黄色もあたたかく、この光のもとではすべてが浄化されるような…。
聖夜に、静かで穏やかな気持ちになれる一冊ですね。

 


山田さん:ありがとうございます。 



☆『ビリーのすてきなともだち』(ブランチ・ボウシンスキー原作/竹下文子 文/山田花菜 絵 教育画劇)





(あらすじ)ビリーは、いろんなものを集めるのが大好き。


ある朝ママとパパに宣言します。

「ぼく、動物を集めてくるね」








ママもパパも忙しくあれこれ働きながら、「どうせ雑誌の切り抜きやぬいぐるみ、だんごむしでも集めてくるんだろう」と思っていたところ…

まさかのお客さまに大仰天!






東條:今年の
5月に出された『ビリーのすてきなともだち』は、明るい色調で見ているだけで元気が出るような作品ですね。

55年前のアメリカの童話が、子どもの夢そのものを描く“幸せの絵本”に。

山田さんの絵本は、ほんとうに色がいい

 


山田さん:この作品では編集の方とも話し合って、アメリカの古き良き時代の童話だから、「そこぬけに明るくカラフルなイメージにしよう!」と決めて描きました。




東條:たしかにママの服装やパパの車も、あの時代のアメリカのホームドラマですね。幸せいっぱいで、家族の笑い声が聞こえてくる感じ。子どものイメージする「幸せなおうち」ってこんな風なのかもしれません。こうでありたいとも思います。

 


山田さん:そうそう。ママもパパも全部を受け入れちゃう感じ!

「せめて、子どもには絵本を読み聞かせる時だけでも、常識なんか全部とっぱらって、こういう幸せな世界を見せてあげたいよね」と編集の方とも話しました。竹下先生もその部分をとても気に入られて、文章を書かれたようです。



(つづく)