12月都内某所にて、絵本作家の長野ヒデ子さんへインタビューさせていただきました。


【長野ヒデ子さん プロフィール】

1941年愛媛県生まれ。
絵本作家。絵本創作に紙芝居、イラストレーションなどの創作の仕事やエッセイや翻訳も。

代表的な作品に

「とうさんかあさん」(石風社/絵本日本賞文部大臣賞受賞)「おかあさんがおかあさんになった日」(童心社/サンケイ児童出版文化賞受賞)、「せとうちたいこさん・デパートいきタイ」(童心社/日本絵本賞受賞)、紙芝居に「ころころ じゃっぽーん」(童心社)、など紙芝居作品も多数。
「演じてみようつくってみよう紙芝居」(石風社)など話題作があります。



〈長野ヒデ子 公式ホームページ http://www.taikosan.com/index.html



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実は、この数日前より仕事のため愛媛へ、岐阜へ、沖縄へと足を運ばれ、さらに控えている新作絵本の出版、紙芝居コンクールの審査などなど、ご多忙を極めていらっしゃる長野ヒデ子先生。
そんな中、こちらのインタビューの申し出を快くお受けいただきました。ありがとうございます。


このインタビューでは、これまでに出版されたたくさんの長野ヒデ子作品の中から、いくつかピックアップさせていただきお話を伺いました。


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まずは、気になるこちらのシリーズ「からだちゃんえほん」シリーズから一冊。


☆『はなはなばなし』 2008年 小学館





東條:こちらは、体のいろいろなパーツを主人公にした「からだちゃんえほんシリーズ」の“鼻”編ですね。

「のびた はなげでなわとび ぴょんぴょん」や、「はなげのふでで おしゅうじけいこ」など、思わず吹き出してしまうようなシーンが続きます。
そもそも体のパーツを主人公に絵本を描こうと思われたきっかけは、何かあったのでしょうか?

 


長野さん:実は当時、ちょっとした不注意で足のじん帯を切ってしまったということがあったの。

当然手術をすすめられたのだけれど、自分の体が本来持つ力を信じてみようと思って。

結局ヨガ療法やなにかで治してしまったのね。

それで、そんな中から、「体の部分ひとつひとつが自分を支えている」ということをすごく感じたところから、このシリーズが生まれたんです。

へそ”編も人気みたいよ。


へそへそへっへへそへっへ~って、最後に楽譜付きで書いてあるの。

みんなで歌うと盛り上がるんですって。


商品の詳細


東條:シリーズ絵本すべてについているわらべ歌は中川ひろたかさんの作曲です。楽しいですね。

普段はあまり“鼻”や“へそ”について考えませんが、こうして絵本であらためて見てみるると「ありがたいものだなあ」としみじみ感じます。


『はなはなばなし』には、「だんご鼻」「わし鼻」「天狗鼻」など様々な形の鼻が出てきてお花見で宴会したりしているので、あれ、そういえばこれらは全部鼻だっけ?と…不思議におかしい気持ちになりました。
しかもこうして「夜遊びしすぎた はなさん」が、最後鼻風邪をひくというオチがついています(笑)




ところで長野先生の作品に頻繁に出てくる「わらべうた」には、なにかルーツがおありですか?


長野さん:私の母が、なんでもかんでもわらべうた風やデタラメ詩にして歌ってくれる人だったの。
わたしが用を足していれば「♪おしり しりしり、しりとりすきで・・・うんうん♪」とか。
その影響はあるわねえ。面白い母だったのよ。(笑)

 



☆『すっす ・はっは・こ・きゅ・う 長野麻子作/長野ヒデ子絵 2010年 童心社

 

東條:『すっす はっは こ・きゅう』は娘さんであられる麻子さんとの初の共著ですね。

こちらも普段みんなが意識しないでやっている“息を吸ってはくこと”に焦点を当てられています。

息や声といったものを、「色」「形」「線」で表現されていたのがとても新鮮でした。


 


東條:麻子さんは岩村和朗さん(『14ひきのねずみ』シリーズの作者)の息子さんとご夫婦でいらっしゃるのですね。



長野さん:そう小さい子どももいるの。娘は現代音楽の研究をしているのです。

呼吸はすべての原点。呼吸から音が出る。呼吸をもう一度見直してみると、新しい自分が生まれる。細胞も呼吸が作る。呼吸は命!

それを幼い子にも解りやすく伝えたいという本をつくりたいと。深くいい呼吸をするとしっかり物事に取り組める、呼吸が浅いと気持ちも浅くなりイライラしたりするらしい。


そう思うと「いい空気を考えてみると自然環境も考える」と心から思う。

大きく息を吸い歌う「民謡」も、空気のいい自然との共鳴のなかで生まれたから、いい声が出るのではないかしらねえ。



東條:私はどうしてもいつも呼吸が浅くなりがちです。
声の為にも健康のためにも、ちょっと呼吸法を練習しないといけないのかもしれません。





☆『おかあさんがおかあさんになった日』 長野ヒデ子作 1993年 童心社




東條:『おかあさんがおかあさんになった日』は、多くの人に贈りたい“生まれ来る子どもへの親の思い”が描かれた作品。
わたしなど読むたびに共感したり、自分の母を思ったりで、つい泣けてしまう一冊です。

いよいよ出産か、というときに病院に急いでやって来た「お父さん」の真剣な表情がまたいいですね!



長野さん:これは、不安やとまどいがいっぱいの中で、“「お母さん」もまた子どもと一緒に生れたんだよ”ということを描きたかったの。

まだ字の読めない子ども達が何度も繰り返し読んでくれるの。それが不思議で色々な方に伺いました。

産婦人科の堀内雅子先生や、発達心理学の汐見稔幸先生は、この本をまだ字も読めないような子が繰り返し読んで欲しがる理由を
「子どもはみなどこかで、自分がいかに望まれて生れてきたのか確認したいのだ」 とおっしゃっていました。「それが生きる力につながると!

 








☆『おとうさんがおとうさんになった日』 長野ヒデ子作 2002年 童心社



東條:『おかあさんがおかあさんになった日』の9年後に書かれたのが、『おとうさんがおとうさんになった日』でした。
「おとうさんはいつお父さんになったの?」というお兄ちゃんお姉ちゃんからの問いかけに、

お父さんが真面目に考え、語ります。

 


長野さん:そう。子どもたちの純粋な疑問よね。だって、お父さんは生まないのに、「どうしてお父さんになったってわかったの?」って。


生まない、おっぱいも出ないお父さん。でも「お母さんとはちょっとちがうところから、同じように赤ちゃんを守っているんだよ」という点を書きたかった。

 


(このあとお父さんは、思い返しながら・・・「おとうさんが おとうさんになった日って まぶしいんだ」、「おとうさんが おとうさんになった日って ふるえるんだ」、「ふしぎなちからがわいてくるんだ」と子どもたちに語ります。)



長野さん:しかもこの作品では、「自宅出産」を選んだ家族を描いているの。昔はみんな自宅出産でしたよね。病院のお産は母子の出産に伴う死亡率も減り、いいこといっぱいですが 、「自宅で産む」ということは、命の鼓動を家族みんなで感じながら、新しい命を迎えるということ。

私たちには本来、生命を迎える、生命を送る、こういったことが生活の中や、産声が聞こえる隣近所みんなで真剣な“祈り”が存在していたなあと、こういうことを思いながら作りました。



(→「前編2」へ続く)