少女の頃、あなたは何を見て 何を思っていましたか?

大人になった私たちが気がつけば失ってしまっていたもの、それは 知らない間に手離してしまったあの頃の「もうひとつの世界」なのかもしれません。

少女だった頃に見た景色がふと甦るとき、はじめて失われたものの価値に気づいた私たちの胸は、ちょっぴり痛むのかもしれませんね。

そんな少女独自の世界が魅力的に描かれた絵本を、ご案内します。

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●『オリビアイアン・ファルコナー著)谷川俊太郎 (訳)2001 あすなろ書店
オリビア

 

おしゃまでちょっと生意気、夢見がち・・・少女の特徴がギュッとつまった『オリビア』は、2001年度コルデコット賞受賞作品受賞作品です。

絵と文とで織りなす「絵本」の形態をおおいに生かしたページ展開。
シンプルで美しい絵と文、内容はとてもキュート!という愛すべき一冊。

 

少女は少女でも、主人公のオリビアは小さなブタの女の子です。

「ひとを へとへとにするのが とくい。

 じぶんまで へとへとにしちゃう くらい。」

これでもうどんな少女なのか、だいたい想像できちゃいますね。

 

毎日洋服を選ぶのにも、「ぜんぶためさないと きがすまない」

鏡の前でママの口紅をつけ、ママのぶかぶかのハイヒールや宝石を身に着けるオリビア。

(それを真似る弟や、その弟をどんなふうに追っ払うのかといったあれこれは、絵だけで説明されています。)

 

美術館で名画を眺めても・・・、

ママに眠りの前の本を読んでもらっても・・・、

オリビアみたいな女の子は、いつだってすぐに、絵や本の世界に飛び込んでキラキラと輝くことができる生きものなんです。

 

「おしゃまなあの娘」がそのまま描かれているよう。

大人と子どもの女の子たちへ。プレゼントにもおすすめです。

 

 

わたしのおふね マギーB』アイリーン・ハース(作絵) 内田利沙子 (訳)1976  福音館書店

 

美しい水彩画で「少女の見る豊かな世界」を描かせたら、この作者の右に出る人はいないのでは・・・と思えるくらい、とにかく全ページのすみずみまで美しく繊細な絵で展開される、ハースの作品。

 

とかく「ままごとあそびが大好き、おかあさんの真似が大好き」というのが多くの少女だと思いますが、こちらの主人公マーガレットに関しては、「遊びなどでは終わらせまい」と ある晩お星さまに願い、さらりと現実にしてしまうんですね!すごいなあ。

 

「ほっきょくせいさん うみのおほしさん おふねがほしいの

 わたしの なまえつけた おふねで

 おもいっきり うみを はしりたいの

いちんちじゅう 

だれか なかよし いっしょに のせて」

この一編の詩のような願いが叶えられた翌朝から、マーガレットの「船の(あるじ)であり「(あぼう)り」であ困難乗り越ない一人前の人間としての、新しい日々が始まります。

 

一見儚げに見える少女の中にうごめく、新しい世界への憧れ。

強い意志でもって新しい人生を歩み始めたマーガレットは、いちども過去を振り返りません。

ちなみに絵本の中にはパパやママなど、大人の影はいっさい見当たりません。(だって、マーガレットの世界はマーガレットだけのものだから。)

 

「けれども嵐が過ぎて目を覚ますと、そこは温かい我が家で、ママが優しく見守ってくれていました」という安心の結末の用意も、ここでは必要ありません。

それくらいに、少女でありいっぱしの大人でもあるマーガレットが、強くたくましく魅力的に描かれているのです。

 

美しい1冊。

 

 

ちいちゃな女の子のうた“わたしは 生きてる さくらんぼ 生きてる さくらんぼ”』デルモア・シュワルツ(文)バーバラ・クーニー(絵)白石かずこ(訳) 1991 ほるぷ出版

 わたしは生きてるさくらんぼ―ちいちゃな女の子のうた

世界を愛おしい目でみつめ繊細な色彩で描く絵師 バーバラ・クーニーにより1979年に描かれた「少女の四季」。

文学者であり詩人のシュワルツが1930年代に詠んだ一編の詩と相まって、ほかにはない 美しい文学世界を紡ぎ出しています。
詩の一部をご紹介します。


“まいあさ わたしは あたらしいものになるのよ”

“わたしは なりたいとおもったら いつでも あたらしいなにかに なれるのよ”

“ときどき わたしは いろんなもの ぜんぶになりたい なんておもうの。”

“わたしは あかよ。”

“わたしは 金。”

“わたしは みどりよ。”

“わたしは 青なの。”

“わたしは いつも わたしでしょう。”

“わたしは いつも あたらしくなるのよ。”


ずいぶん長いこと忘れていた「少女ののびやかさ」を、取り戻しましょう。
ほんとうは、なんにでもなれる。
いつだってあたらしい自分になれる。

読み終えたすべての人々に、生きる喜びと希望をもたらす 至極の一冊です。

(東條)