『僕らの絵本』

東條:皆さまへ次の質問です。【作品は〈我が子〉ですか?】



なかえ:いや、我が子って思ったことはないなあ。子どもじゃないよねぇ・・作品は。



西野:実際、かたちは全然違いますしね。



(会場 笑)



西野:僕は実際に子どもがいないので、独身ですからちょっとわからないところもあるんですけど・・「我が子くらいに可愛がる」みたいなことですよね、その意味は?僕はね、まぁ本当に・・自分の作品が大っ好きで。ほんっと好きなんですよ!



(会場 笑)



西野:「いいぞ!」「本当にいいよ!」って思っちゃうから。他の本を見てる人がいたら、「バカっ!」て取り上げて、「そんなん見んでええから、こっち読めよ!」って思っちゃうんですよ。



(会場 笑)



西浦:なるほど。(笑)



西野:だから、「こんなにいいの(作品)があるんだから流通してほしい」って思う。子どもがいないからわかんない部分ももちろんあるんですけど、〈我が子〉くらい手をかけてる。情もあるかもしれないですね。



西浦:僕の場合は、(作品作りは)僕一人で完結するものではないことが多いので。必ずしも僕の意志だけで成り立つものではないんで。それを〈我が子〉と扱っていいのかどうか、悩むところではあるんです。かといってまあ、批判されたら腹立つことは立つし・・・。「お前の子どもブサイクや」って言われたら腹立つみたいなもんで。



東條:西浦さんは普段共同作業で音楽を作っていらっしゃいますが、この度のT シャツのデザイン (※20.)はお一人でやられたわけですよね。

(※20.)


『僕らの絵本』


西浦:僕の場合、おひとりで・・自分発信でやられている人のことをすごい尊敬しているんです。僕は今までどっちかっていうと、誰かに動かされてやることが多かったので。いざ自分でやるとなると「俺、そんなエンジンなかなか無いよなぁ」って・・・。



西野:体力要りますよね、ほんとに。



西浦:バンドとかでも「フロントマン」と呼ばれる、自分で曲を作ったり歌ったりされる人っていうのは、中には割とキャラが濃い人がいたりするわけです。ちょっとクセがあるというか。だからそういう人といると「疲れるわ~」とか思うことも度々あるんですけど、きっとそれがエンジンなんやなぁって。自分発信で何かをやろうと思う時に痛感させられるんです。やっぱり・・・みんなに遠慮してたりしたらそんなこと出来へんなぁっていうのは、すごい感じます。



西野:そうですね。



西浦:そういう意味ではすごい尊敬してますね。自分発信できる人を。



西野:(なかえ)先生なんかはどうですか?200冊くらい本を出されて、「ほとんど絶版だよ」みたいなことを仰っておられましたけど。



東條:絵本は早いですよね?絶版になってしまうのが早いと感じます。



西野:えーっ、それ、悲しくないですか?



西浦:理由は?



東條:やっぱり、売れ続けないと出版社の方でも・・ということでしょうね。



西野:でも絶版になった本の中には、先生、「これムチャクチャいいのに!」ってのもありますよねえ?



なかえ:ほとんど、そうですね。



西野:それはそうですよねえ!



(会場 笑



西野:「絶版になったけどこっちの方が良いよ」っていうのも絶対にありますよねえ。僕だったらもう、号泣しちゃうなあと思って。だって悲しくないですか?



(会場 笑)



なかえ:運が良ければ、復刻してもらえればいいなあと思ったりしますけど。でも、今の〈我が子〉の話じゃないですけど・・子どもと作品とでは、作り方が違いますよねえ?



西野:まあそうですね。子ども作るときにはもう少しいやらしい行為をしないと、ですねえ。(笑)



(会場 笑)



なかえ:作品で「できちゃった作品」なんてのは無いわけで。だから、比較するアレじゃないなぁって。



(会場 笑)



なかえ:「作品とはなにか」っていうのをすごく深刻に考えちゃう方なんです。・・ちょっとまた(例を)出しちゃっていい?



西野:また悪口ちゃうでしょうね?例の「ももたろう」は一回死んでますから。(笑)



(会場 笑)



なかえ:(鞄から1冊の本を取り出す。)僕が最初に出会った本。手塚治虫さんの漫画『メトロポリス 』(※21.)、これは小学校3年の時にもらったものです。昔はこんなふうにケースに入ってたんですよ。だから、「本はケースに入るべきだ」っていう思いがあって。大切にするっていう意味もある。

(※21.)
『僕らの絵本』



西野・西浦:なるほど~。



なかえ:(ケースから)スッと出るものや、なかなか出ないもの・・いろいろあるんですけど。この〈ケース〉というものが結構気に入っているんです。



西野:へえーっ。



なかえ:(絵本を1冊取り出す。)この『扉の国のチコ』 (※22.)も、どうしてもケースに入れたくて。出版社にお願いして、限定で200部くらい(ケース入りで)作ってもらったんです。(絵本を指さしながら)ここは「小口」と呼ばれるところなんだけど、普通は白い紙の色が見えるんですけど、黒色にしてもらったり。

(※22.)
『僕らの絵本』

だから、「本」っていうよりも「オブジェ」・・より作品っぽくなってくるんじゃないかなと思ったりして。「ケースに入っている」っていう、ここから(作品作りは)始まると思っているんです。



西野・西浦:なるほど~。



西野:「作品」ですね、ほんとうに。



なかえ:でも出版社では普通、なかなかこれは出してもらえない。(笑)



西野:いやがりますよね、その分コストもかかりますから。



西浦:昔の方が、ケースがある本は多かったっていうことですかね?



なかえ:けっこうありましたね。



西浦:たしかに最近の本って、ケースに入ってるものってあんまりイメージしづらいですねえ。



西野:コストかかるわ、立ち読みしづらいわ・・って理由でセールスには繫がらないですよね。



なかえ:だから今は・・電子図書なんてのが出てきたからね、すぐにそれ(電子図書)にできるようなもの(作品)も作ってるんですよ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(記録⑫へ続く。)