※対談記録の中では、発言者の氏名を省略させていただきます。[天沼春樹さん⇒天 北見葉胡さん⇒ 東條⇒]

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(※記録⑥の続き)

「『リトル・レトロ・トラム 』は、最初タイトルをパッと聞きますと、言葉遊びのような面白さがありますね。」


「〈小さな なつかしい トラム〉という意味ですね。初めて北見さんの個展へ行った時にトラムの絵があったんです。それがもう、頭に焼きついて。」



「この絵本の表紙の絵が、それですね。私は当初全部描き下ろすつもりで取りかかったんですけど、どうしても天沼先生に個展でみてもらった絵を超えられなかったんです。

特に表紙は、個展でみてもらったものよりも絶対にいいものにしたいと思って描くんですけど、(それ以上のものが)まったく描けなくて。ちょっと今日、それを持ってきたのでお見せします。(※表紙用に描いたという未完成の油絵を見せながら)

そしてこちらが天沼さんが個展でご覧になった絵。(※個展で展示した絵を見せる。)どうしても、この(個展の)絵の方が、天沼さんの書いた作品世界に近いんですね。


他にも〈気球広場〉のシーンもタブロー画を見てお書きになった文章なので、どうしても超えられないんですね。それでタブロー画をデータ上で絵本のサイズに修正することにしました。(※画像9)

〈気球広場〉のタブロー画とデータにしたものを比べて、どこが違うかわかりますか?


まず、文章を左側にするために絵は左右逆になっているんですけど、なんともし難かったのが、この、気球の天地のサイズなんですね。それをどうしたかというと、データ上でこの気球をぺちゃんこにしたんです。わかりますか?そしたらうまいこと入って、しかもこっちの方がバランスが良いと・・・思いません?()


で、結局こういう形で、この〈気球広場〉のページは(個展の)タブロー画の雰囲気で再生することができたんです。それと同じように、表紙の絵もなかなかうまくいかなかったんですね。


その日々の中でまた表紙のタブロー画を展示する機会がありまして、いらしてくれた天沼さんに「どうしても表紙の絵が描けないんです」と話したら、「これでいいじゃない!」とおっしゃったんです。そういう風に言われたら目からうろこが落ちて・・・「たしかにこれがいいかも」と思い、表紙も気球広場と同じようにサイズをデータで修正したのです。」(※画像10)



「なるほど。表紙については「絵本のための絵」ではなく、「個展で展示されたタブロー画」だったということですね。」



「そうです。反面それ以外のページで・・・たとえば少女が不思議な町をめぐってくる場面があるんですけど、夜のお祭り広場の様子などは、私はタブロー画で描いていなかった世界なのですが、そういうのは逆にどんどんイメージがわいて簡単に「自分のもの」として絵を描くことができたんですね。


結局、天沼さんが私の絵からイメージされて書かれた文章のところは、自分がその絵を超えられない。逆に、天沼さん自身がイメージを膨らませて書かれた部分に関しては、簡単に浮かんでくるんだなあ・・・ということに、今回この仕事で気付かされたんです。」


「【こたえはひとつ】ということですね。」



「そういうことですね。() 皆さんぜひ、原画を、あとでゆっくり見比べてみてください。」


「(北見さんが)そんなことを行われていたとは、知らなかったです。」


(※記録⑧へ続く)

※画像9
『僕らの絵本』

※画像10
『僕らの絵本』