君のそばにいるよ。

 

いつもそばにいるよ。

 

ずっとそばにいるよ。

 

 

少女漫画のヒーローが言っていたらときめく言葉かもしれないけど。

 

もしそこに「トコジラミは」という主語がついたら、それは震えるほど恐怖の言葉となる。

 

 

トコジラミは君のそばにいるよ。

 

トコジラミはいつもそばにいるよ。

 

トコジラミはずっとそばにいるよ。

 

ずっと、

 

ずーっと君のそばにね……

*****

 

これまでのいきさつ:

 

我が家にトコジラミがいる。

 

奴らがベッドに登ってこられないよう、マットレスの側面にハエ取り粘着シートをつけることにした。

 

*****

 

 

 

 

ベッドのマットレスに新品のボックスシーツをかけ、その側面にぐるりとハエ取り粘着シートを貼りめぐらせる。

 

 

これまで寝具はこまめに乾燥機にかけることで対応していたのだが、これを機に掛け布団も新品を用意した。

 

布団カバーはつけない。

 

布団カバーのファスナー部分にトコジラミが隠れていたという体験談が多いからだ。

 

もちろんカバーがなければ布団は汚れるだろうが、そのときは捨てる方針だ。

 

地球には優しくないが、仕方ない。

 

地球に優しい方法は、トコジラミにも優しくなってしまうから。

 

 

 

 

まくらは捨てた。

 

まくら内部にも潜むらしいので。

 

この非常事態に、まくらの有無なんてどうだって……

 

「いや、まくらは必要だよ」

 

夫が異を唱えた。

 

「まくらがないと快適に眠れないし」

 

は?

 

 

 

 

凍えそうな季節に君は愛をどーこー言うのかとか西川貴教が言ってたけど、まさしくその心境だ。

 

トコジラミの蔓延する季節に君は、まくらがどーこー言うの!?

 

 

快適さなんて、今どーでもよくない!?

 

 

 

「しっかり眠らないと、仕事に差しつかえるから」

 

うっ。

 

仕事を引き合いに出されると何も言えない。

 

 

 

 

分かりましたよ、まくらをご用意しますよ、お坊っちゃま。

 

ブランケットを畳んで、まくらカバーに入れた。

 

ブランケットなら乾燥機にかけた上でアイロンもかけられるので、安心だ。

 

しかし……

 

 

「高さが足りないなぁ」

 

 

お気に召さないらしい!(怒)

 

タオルで調節し、なんとか夫好みの高さの枕が仕上がった。

 

世話が焼ける……

 

 

 

 

 

 

しかし、これで完璧だ。

 

ベッド上の物はすべて新品か、乾燥機にかけた上で念入りにアイロンをかけた物。

 

マットレス側面には、隙間なく粘着シート。

 

明日の朝は、虫刺されのない爽やかな朝となるだろう。

 

そう思って眠りについた。

 

のに。

 

 

 

 

「今日も刺されてる~!! なんで~!?」

 

 

爽やかな朝でなく、絶望の朝が訪れたのだった。

 

もー、ほんと何なのアイツら!

 

 

ーーどんな状況になろうとも、そばにいる。

 

それこそがトコジラミ。

 

「いつも君のそばにいるよ。ずっと、ずーっとね」