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これまでのいきさつ:
我が家にトコジラミがいる。
トトリはそう主張するが、物証がないので夫に信じてもらえない。
ついに吸血被害に遭うが、一般的なトコジラミの刺し跡と違うため、これも夫は信じていないようだった。
そんなトトリのことを、夫はどう見ていたかというとーー
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ある日を境に、妻がおかしくなった。
我が家にトコジラミがいると騒ぎ出し、家の物を片っ端から捨てはじめたのだ。
「トコジラミは物の間に潜むから! ミニマリストにならないと!」
口癖のようにそう言っては、あらゆる物を捨てていく。
使っていない物を捨てるのは、まだいい。
毎日使っている物を捨ててしまうとは、どういうことだ。
「トコジラミは家電にも潜むから!」
そう言って、妻はコーヒーメーカーも空気清浄機も捨ててしまった。
「コーヒーはドリッパーさえあれば手で淹れられるし、空気が清浄かどうかなんて、トコジラミがいるかいないかに比べたら些細なことよ」
そもそもトコジラミにとって、寝室から遠い場所にあるコーヒーメーカーに潜むメリットなんてあるだろうか。
そう言ってみたが、
「トコジラミはどこにでも潜むんだってば!」
と、妻は取り合わない。
妻は、カーテンも捨てた。
カーテンだけならまだしも、カーテンレールまで取り外して捨ててしまったのには驚いた。
まるで引っ越し直後のような窓辺に、唖然としてしまう。
本当にトコジラミがいると確証が取れているなら、この行動も納得できる。
しかし、本当にいるのだろうか。
我が家は、誰も刺されてはいない。
トコジラミの痕跡と言われる「血糞」とやらも見つかっていない。
なのに、どうしてトコジラミの存在をそんなに信じられるのだろう。
妻は虫を目撃したというが、それは「一瞬のことだった」と本人も言っているし、見間違いかもしれないのに。
別の虫かもしれないのに。
そうこうするうちに、妻は、トコジラミ捕獲装置なるものを作りはじめた。
その装置での捕獲に失敗すると、今度は、
「こうなったら、わたし自身がおとりのエサになってトコジラミを捕まえる!」
と言い出した。
本人曰く、「シン・トコジラミ捕獲装置」だそうだ。
なんなんだそれは。
おとりのエサとなるべく座卓に横たわる妻の姿は、あまりにも異様で、奇妙で、正直少し怖かった。
(夫・談)