「我が家にトコジラミなんていないよ」
 
夫がそう思うのには、理由があった。
 
 
理由その1
この時点では、二人とも一切刺されていない。
愛犬にも、かゆがる素振りはない。
 
理由その2
「血糞」と言われるトコジラミの糞の汚れがない。
 
(たしかに、刺されておらず血糞もないなら、いないと思われても仕方ない……)
 
そして最後の理由は、
 
理由その3
我が家の生活スタイルでは、トコジラミが家に入り込む可能性は極めて低いはず。
 
というものだ。
 
 
コロナ禍以降、夫は在宅勤務となった。
 
わたしは専業主婦。
 
週末はたいてい、夫婦で愛犬を連れて郊外のドッグランに車で出かける。
 
つまり、公共の交通機関はほとんど使わないのだ。
 
(公共の交通機関を使うのはわたしが友人と出かけるときくらいだけど、わたしは基本的に電車内では座らない)
 
出かけるときは必ず愛犬も一緒なので、映画館や劇場、カラオケ、ネットカフェなど、トコジラミが好みそうな「暗い室内」に行くこともない。
 
夫は旅行好きだが、わたしはコロナだのサル痘だのトコジラミだの次々出てくる危険が怖くて、コロナ禍以降は夫の旅行の提案をすべて断ってきた。
 
外食時は、犬連れのためテラス席を選ぶ。
 
外席の椅子は、室内の布張りの椅子よりもトコジラミは潜みにくいだろう。
 
「うちの生活スタイルでトコジラミが侵入することなんて、そうそうなくない?」
 
夫はそう言って「うちにはいないよ、きっと」と笑った。
 
「……」
 
わたしは、なにも言えなかった。
 
実は……
 
実は……
 
わたしには、あるのだ。
 
一つだけ、トコジラミの侵入ルートに心当たりが。
 
 
そう、あるのだよ、心当たりが!!
 
夫よ、ごめんー!!