湯船に浸かり、気持ちが落ち着くと、ハッと我に返った。
 
「マットとクッション、あのままにしたらマズイ!」
 
慌ててお風呂から上がり、身支度もそこそこにリビングへ戻る。
 
急いで大きなビニール袋にクッションとマットを入れたけれど……
 
わたしが目を離していた間に別の場所に移動してしまっているかもしれない。
 
どうしよう。

 

 

 

 
ごくりと息を飲んだとき、ソファに座っている夫が「何してんの?」とのんびり声をかけてきた。
 
わたしは手にしたビニール袋をぎゅっと握りしめたまま、答えた。
 
「あのね、もしかしたら我が家、トコジラミがいるかもしれない」
 
「は?」
 
「それっぽい虫を見た」
 
「それっぽいって?」
 
「なんか、小さくて素早く動く虫」
 
「そんな虫、トコジラミ以外にも沢山いるでしょ」
 
「そうだけど」
 
「トコジラミなんて、そうそういないんじゃない」
 
夫は「考えすぎだよ」と笑った。
 
 
考えすぎ?
 
それならいいのだけど……