初めて「それらしき虫」を見たのは、昨年12月初旬のことだった。
 
場所はリビング(一階)。
 
 
その夜、キッチンでの家事が終わりリビングに行くと、三人掛ソファの真ん中で愛犬が寝ていた。
 
いつもはソファの左端がわたしの定位置なのだけど、そのときは少し疲れていて、横になりたかった。
 
愛犬がよく眠っているので、ソファを諦め、クッションを取り、床のマットの上に寝そべる。
 
しばらくその体勢でスマホを見ていたところ、何か小さな黒っぽいものが視界の端に入ってきた。
 
「ん?」

 

 

 

 
そちらの方に目を向けたそのとき。
 
その小さな何かがものすごい勢いでわたしの方に向かってダダダダと走ってきた。
 
その走り方を文字にするならまさに「ダッシュ」。  
 
驚きの早さだった。
 
「きゃっ、虫!」
 
驚いて体を起こすと、その虫はサッとマットの下に走り込んだ。
 
「うわっ」
 
わたしはその場から飛び退いた。
 

 

 

 

実はそのとき、わたしはスマホでトコジラミに関する記事を読んでいた。
 
――いま見た虫……なんかトコジラミに似ていたような……?
 
マットとスマホを交互に見つめ、わたしはしばらく呆然とその場に立ち尽くしていた。